フェルナンド・ボテロ《オレンジ》2008年、油彩・カンバス、縦148センチ×横206センチ

 あらゆる形が大画面の中でふくらんでいる。これがコロンビアの画家、フェルナンド・ボテロだ。聖人にしろピエロにしろ、人々は無表情で捉えどころがないのに、はちきれんばかりにふくよかな風貌だから、えたいの知れないエネルギーを宿しているように見える。温かみのある色合いで一見、ほのぼのとした画風だが、独特の美意識に貫かれ、謎めいてもいる。

 人物画がメインの本展だが、ボテロは本作のような静物画も多く描いた。中綿が入ったようにふくらんだ布、刃先まで丸いナイフ、そしてごろんと転がるオレンジ。デフォルメの原理は人と同じだが、宗教的な意味や社会的な背景から離れた静物だからこそ、その特異なスタイルによって生まれたボリュームが一層、際立つ。

 「静物画にはボテロ絵画のエッセンスが詰まっています」と語るのは学芸協力した女子美術大の三谷理華教授だ。「ボテロはものの形や色、ボリュームを静物画を通して探究し、人間を描く時も静物画のように描きました」と語る。20歳でコロンビアをたち、ヨーロッパの美術館を巡るなかでボテロが特に感銘を受けたのは、巨匠らによる「ボデゴン(厨房ちゅうぼう画)」だった。

 ふっくらと描くボテロ様式が生まれたのはそれから数年後。弦楽器のマンドリンを描いていた時、サウンドホール(中央の穴)を小さくしたら輪郭とのコントラストが生まれ、膨らんで見えた。資料映像では「爆発するように膨れ上がっていった」と振り返る。ボリュームがエネルギーを宿すことを見いだした瞬間だった。オレンジは、一貫してボリュームとデフォルメを追求した作家の姿を伝えている。

PROFILE:

Fernando Botero(1932年生まれ)

コロンビアのアンデス山中の都市、メデジンで生まれる。絵画展で入賞した賞金で20歳で欧州に渡り、イタリア・フィレンツェではフレスコ画の技法を学ぶ。彫刻も手がける。

INFORMATION

ボテロ展 ふくよかな魔法

7月3日まで、東京都渋谷区道玄坂2のBunkamuraザ・ミュージアム(ハローダイヤル050・5541・8600)。初期から近作まで約70点が並ぶ。

2022年5月30日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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