【アートの扉】
遠藤利克 「空洞説-鉛の柩」 
日常の向こう側

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

現代美術

 床に炭化した木の直方体が横たわる。目を上げると、壁に同じく四角い物体がかかっている。両方とも「柩(ひつぎ)」と名付けられた作品だ。

遠藤利克 2022年 鉛、鉄(写真上)

 柩は作家にとって重要なモチーフだ。例えば、本展で床に置かれた黒い柩「空洞説-鏡像の柩」。柩というからには内部に関心が向かうが、命を失った者が横たわるはずの内部には鏡があるだけだという。ふたは開けることができず、見る者は想像のなかで鏡を見つめることになる。内部をのぞくならば、そこにあるのは死者ではなく、のぞきたいという欲望に駆られた自分の姿だ。

 重厚感のある黒い柩に対し、垂直上に壁にかかる本作「空洞説-鉛の柩」は軽やかだ。鉛の板によってふたのない箱状に形作られ、内の空洞があらわになっている。

 鏡は外の世界を写し取り、ざらついた鉛は外の光をのみ込む。あの世とこの世の中間地点にある柩を通して、それぞれの物質性が共犯関係のように浮かび上がる。

 遠藤利克さんは、可変性が高く「いいかげんで、人間くさい」鉛に、近代の問題を見る。「錬金術とは鉛を金に変えること。この錬金術が科学と宗教の問題に分岐した」と歴史をひもとく。鉛はつまり、情念の表れでもある。「日本は近代化に際し、情念やそこから派生する薄気味悪さを排除しようとした。しかし、情念も含めて近代が成り立っていることが重要なのです」

 自らも錬金術師のように鉛や火を用い、合理的日常にひそむ、意識下の世界にいざなう。

PROFILE:

えんどう・としかつ

1950年、岐阜県生まれ。国内で多数の個展やグループ展で発表し、独の「ドクメンタ」をはじめ国際美術展にも参加。芸術選奨文部科学大臣賞、毎日芸術賞。

INFORMATION

遠藤利克

14日まで、東京都台東区谷中6の1の23のスカイザバスハウス(SCAI THE BATHHOUSE、03・3821・1144)。月曜休み。

2022年5月9日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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