《東海道五十三次ひとめ図》 2012年 漆工芸 静岡市美術館蔵 図案・柿木原政広 制作・静岡漆器工業協同組合、静岡県蒔絵工業協同組合、鈴木クラフト工業

 静岡市美術館のエントランスに常設されている、縦2メートル、横3.2メートルもの巨大な地図のような漆芸作品。その大きさと鮮やかな色彩、どこか異国情緒を感じさせる不思議な画面は、多くの来館者の足を止める。

 上部の作品名はすんなりと読めない。しかし画面を時計回りに90度回転させると、欧文筆記体のような文字が平仮名だと気づくだろう。これは江戸時代、葛飾北斎らが西洋の銅版画を意識して浮世絵に用いた手法だ。

 作品名のとおり東海道五十三次を「ひとめ」で見渡すことのできる本作には、漆や蒔絵(まきえ)、指し物という静岡の伝統工芸の技術が凝縮された。その歴史は徳川家光が静岡浅間神社の社殿造営の際、全国から名工を集めたことに遡(さかのぼ)るという。陸地部分は、古地図の国割りを元に指物師が木地を切り抜き、塗師(ぬし)が刀の鞘(さや)塗りから派生したカラフルな30種もの変塗(かわりぬり)を施した。それを取り囲む漆黒の海が画面を引き締める。蒔絵師が金粉を蒔き付け立体的に描いた波や帆船は動きを感じさせ、見るものの目を楽しませる。図案は当館のロゴマークを手がけた柿木原(かきのきはら)政広氏によるもの。こうして伝統的な美しさの中に現代の感覚を生かした漆芸作品が誕生した。

 作品名の下にはこう続く。「いえやすがごじゅうさんのしゅくえきをおいてよんひゃくじゅうねん きょうもこのみちをひとびとはゆきかう」。東海道五十三次のほぼ真ん中に位置する静岡では、人々が往来する中で多様な文化が花開いた。時間と空間をゆるやかに包みこんだ本作は、伝統と私たちの今をつないでいる。

 ◆メモ
 ◇東海道五十三次ひとめ図
 静岡市美術館の開館1周年を記念し、約2年の歳月を経て完成。「ひとめ図」とは、江戸時代の人々が鳥瞰(ちょうかん)図のような絵図をこう呼んだことにちなむ。

INFORMATION

静岡市美術館(054・273・1515)

静岡市葵区紺屋町17の1、葵タワー3階。3月27日まで、「平等院鳳凰堂と浄土院」展を開催。月曜日(3月21日除く)と3月22日休館。

2022年2月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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