ミケル・バルセロ《雉のいるテーブル》1991年、ミクストメディア/カンバス、235センチ×285センチ、厚さ6.5センチ、作家蔵、ⒸADAGP,Paris&JASPAR,Tokyo,2021. Photo ⒸGalerie Bruno Bischofberger

 まず目に飛び込んでくるのは、カンバスの上に盛られた絵の具、そこに練り込まれた土や砂、ひもなどによって生まれる凹凸や亀裂だ。そして、見上げるほど大きい。入り口で「撮影のための後ずさり禁止」と注意喚起されるほどに。バルセロの絵は、見る人を、その物としての質感で圧倒する。

 本作は、創作のためにたびたび訪れた西アフリカの「魔よけ市」に着想を得て描いた。テーブルには干からびたウサギ、水牛の頭、獣の尾や脚が置かれている。かさぶたのように盛り上がった絵の具はミイラ化した動物たちの骨や皮となり、また鋭く削り取られた絵の具の痕跡は、たくましいキジの尾羽となった。地中海の故郷の島で海に潜っては取ったというタコやエビ、魚もその中に混ぜ込んだ。黒ずんで一体となったものたちが異臭を放ちながら迫ってくるようだ。

 バルセロの創作の原点には、洞窟壁画への関心がある。立体的なマチエール(絵肌)とモチーフが一体となった作品は確かに、既存の凹凸を利用した洞窟壁画に似ている。一方、頭蓋骨(ずがいこつ)や生けられた花といったモチーフからはヨーロッパ伝統絵画への敬意が見いだせる。東京オペラシティアートギャラリーの福士理学芸課長は「バルセロは美術史を踏まえたうえで、絵画とは平面であるべきだとする近代の思想を乗り越えようとしている」と指摘する。

 生のはかなさを突きつけるバロック期のバニタス画を想起する人もいるだろう。しかし、これでもかと描き込むある種のサービス精神や、混沌(こんとん)に肉薄しようとするバルセロの姿勢は、「空虚さ」や「むなしさ」とは全くの無縁なのだ。

PROFILE:

Miquel Barceló

1957年、地中海のスペイン・マジョルカ島生まれ。ほぼ独学で芸術を学ぶ。82年、ドイツで開催された国際美術展「ドクメンタ7」でデビュー。同島の他、パリ、アフリカのマリ、ヒマラヤなど世界各地で制作する。

INFORMATION

ミケル・バルセロ展

3月25日まで。東京都新宿区西新宿3の20の2、東京オペラシティアートギャラリー(ハローダイヤル050・5541・8600)。月曜(3月21日は除く)、3月22日休館。

2022年2月14日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする