2021年 縦130.3センチ、横162センチ

 つい昨年、展覧会があったばかりなのに、今度は新作がメインの個展だという。雑誌連載をこなし、東京メトロの駅には原画を手がけたステンドグラスが設置され、取材はひっきりなし。年齢のことを触れるのもどうかと思うが、「日本一忙しい101歳」と言いたくなる。

 2020年から今年にかけて描かれた油彩が15点も展示されている。これまで以上に色や形がダイナミックに、自由に跳ね回って、力を増している。

 本作では、画面中央に向かって、荒々しい筆致で描いた黄色い塊がぶつかり合うように流れ込んでくる。抽象的に描いているが、絵の前に立つうち、灰色の空や山の稜線(りょうせん)、川の流れが目に浮かぶ。そう向けると、野見山暁治さんは、絵のなかに故郷・福岡の炭鉱町があると答えた。

 「昼も夜も足音や声が聞こえ、こうこうと燃え、人間の生臭い闘争がある。だからね、言われてみると、なんとなくこういう世界だなと」。終始何かが動いている。ここに並ぶ新作そのものだ。「いつでも騒々しくて、これという完成感がなくて、いつもつくっているけど壊される、というような。今はこの形をしているけど流動しているような感じですね」。東京暮らしがずいぶん長いのに、身体に染みた土地が、100歳を超えていっそうあふれ出てきたようだ。

 なお毎日、描く。21年作の「なにを隠そう」は、白い大きな塊の周囲を赤や青、黒などがせめぎ合うように埋めている。これまでにない色面構成に「ぼくはあの絵のような方向に行くんじゃないかという気持ちがあります」と、次の展開も見据える。

PROFILE:

のみやま・ぎょうじ

1920年、福岡県生まれ。43年、旧東京美術学校卒。52年渡仏し、サロン・ドートンヌ会員。安井賞、毎日芸術賞、文化功労者。「四百字のデッサン」で日本エッセイスト・クラブ賞。

INFORMATION

野見山暁治展 100年を超えて

3月27日まで、東京都新宿区愛住町2の5の堺屋太一記念東京芸術大学美術愛住館(03・6709・8895)。旧作の水彩画も展示する。月火休館(3月21日除く)。

2022年2月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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