竹久夢二《草に憩う女》大正初期 絹本着色、掛け軸 静岡市美術館蔵

 1909(明治42)年、25歳の竹久夢二は、新聞や雑誌に掲載された自らの絵を1冊にまとめ、「夢二画集 春の巻」を出版した。夢二が描いた瞳の大きな女性像は多くの読者を魅了し、2年足らずの間に「夢二画集」の続編や「京人形」など10冊以上の著作が陸続と出版される人気ぶりだった。「夢二式の女」「夢二式の眼(め)」といった言葉まで生まれたという。

 「草に憩う女」もまた、「夢二式」と呼びたくなる大きな瞳をもつ少女像である。赤い振り袖に同色の手ぬぐいの頰かむり、大きな花かんざしを差した華やかないでたちの少女が緑の草の上に腰掛けている。S字形に身をくねらせるポーズや裾を引く着物の着付けが江戸時代の浮世絵版画を連想させる一方で、大作りな目鼻立ちはどこか西洋風な印象を与える。ほっそりとした体つきには不釣り合いなほど手と足が大きいプロポーションも特徴的だ。和と洋、過去と現在、たおやかさと力強さが入り交じった複雑さがこの絵の大いなる魅力であり、当時の人々が夢二の絵に感じた新しさの源泉でもあったろう。

 あでやかな装いの中でもとりわけ目を引くのは、色とりどりの植物模様が描かれた黒地の帯だ。モダンで西洋風な意匠は、今日の眼にも新鮮に映る。夢二は14(大正3)年に東京・日本橋に自らがデザインした小物を販売する「港屋」を開店し、浴衣や帯、半襟などのデザインも手がけた。本作品にも、そんな夢二の関心のありかと才能が垣間見える。絵画、文筆、装丁、デザインなど分野にとらわれず表現し続けた夢二らしさがあふれる一幅である。

PROFILE:

たけひさ・ゆめじ(1884~1934年)

岡山県出身。1907年前後から詩人・挿絵画家として頭角を現し、絵や文筆のほか、書籍や楽譜の装丁、小物のデザイン、人形制作など大正期から昭和初期にかけて多方面に活躍した。

INFORMATION

静岡市美術館(054・273・1515)

静岡市葵区紺屋町17の1、葵タワー3階。2月5日から3月27日、「平等院鳳凰堂と浄土院」展を開催。月曜日(3月21日除く)と3月22日休館。11月に竹久夢二の所蔵作品を展示予定。

2022年1月31日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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