1953年 国立歴史民俗博物館蔵

【アートの扉】恵比寿大黒模様型染万祝大漁もたらす「福の神」

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

日本美術

民俗

 駅名になっていたり、ビールのラベルに描かれていたり。七福神のなかでも身近なエビスさんは、いまだ謎めいたところがあるという。

 漁師の晴れ着、万祝。腰から下に大きく描かれるのは、宝船。左で船から身を乗り出しているのがエビス、右で「大漁」の扇子を持つのが大黒だ。千両箱やサンゴなどのお宝が満載で、海には魚がピチピチ跳びはねるさまが、鮮やかに染め抜かれている。

 お決まりは、片膝を立て、釣りざおを持ち、タイを抱えて座るスタイル。魚は鹿児島・屋久島ではカツオ、岩手・大船渡ではブリになることも。耳や足が悪いという伝承もあるそうだ。

 企画した国立歴史民俗博物館の松田睦彦准教授によると、このエビス、七福神では唯一日本由来で、漁業や商売、農業など生業に関わる神なのだそうだ。私たちになじみの福神だが、元々は「異」のイメージをまとっていたという。その名が中央政権から見た辺境の人々、エミシに通じることからも、遠い土地から来た異様で荒々しい神として認識されていた。詳しい経緯は不明だが、それが西宮神社などの祭神となっていく。こうした大きな神社を介して広がったエビスは、各地の在来の信仰を取り込みつつ漁村や農村に浸透した。大黒と対になることも多いが、これも理由はよく分かっていない。松田准教授はかつて、「エビスが分かれば日本が分かる」と言われたこともあるそうだ。

 「えびす顔」の言葉の通り、展示室のエビスはみな福々しい。沈みがちなご時世だが「エビスさんの姿を見て、笑顔で帰ってほしい」。松田准教授のささやかな願いである。

 ◆メモ
 ◇万祝(まいわい)
 江戸末期の房総半島が発祥で、静岡県から青森県まで太平洋沿岸の漁師に広まった晴れ着。漁期の終わりに、船主や網主が設けた大漁祝いの席を万祝と称し、そこで配られた着物もまた万祝と呼ばれるようになった。

INFORMATION

特集展示「エビスのせかい」

2022年1月10日まで、千葉県佐倉市城内町117の国立歴史民俗博物館(ハローダイヤル050・5541・8600)。月曜日と年末年始(12月27日~22年1月4日)休館。1月10日は開館。

2021年12月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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