クロード・モネ「ルーアン大聖堂」1892年、油彩、カンバス、ポーラ美術館蔵

 130年前に描かれたとは思えないほど、現代的な絵画である。建造物の一部分が不自然にクローズアップされ、青と桃色の強いコントラストは、白が重ねられることで曖昧で捉えどころのない構造に変化している。また、対象としては「聖堂」を描きながらも「宗教性」はその主題から排除されている。揺れ動くような画面からは、何か予兆のようなものが感じられる。

 ルーアンは仏北西部ノルマンディー地方にある古くからの河港都市であり、セーヌ川が市内を貫流する。右岸の中心地にある、中世を代表する後期ゴシック様式建築のルーアン大聖堂を、モネは同様の構図で何度も繰り返し描いた。妻を残してしばしジヴェルニーを離れ、この聖堂のファサードが見える部屋を借りたモネは、1892年と翌93年の2度にわたり滞在し、実に30点もの連作を手がけた。夕刻に描かれた本作はそのうちの1点である。

 早朝から晩まで、時間帯によって刻々と移り変わる光を追うために、モネは14点のカンバスを同時に並べて描いたという。流れ去る「時間」を捉えるためにカンバスが並列する様は、さながら一連のシークエンスのようだ。「モネ、リュミエール、そして映画的時間」(S・Z・レヴィーン著、1978年)と題されたエッセーに引用されたモネ自身の言葉をみてみよう。絵画を、「網膜が捉えた印象を、スクリーンとしてのカンバスに投影する」行為と形容する画家が描いた大聖堂の連作は、なるほど定点カメラのパンやズームによってフレーミングされ、幾重にも重なる無数の時間と光を内包した、映画的な絵画と呼べるかもしれない。

 ■ことば
 ◇「夕暮れ時」の照明
 現在、モネが過ごしたパリ郊外の午前9時の明るさに調光している同館。25日まで1日5回、各3分間だけ照明を「夕暮れ時の光」に切り替える「マジック・アワー ~モネと歩く夕暮れ~」を実施中。

INFORMATION

ポーラ美術館(0460・84・2111)

国内最多19点のモネ作品を収蔵。2022年3月30日まで、気鋭の建築家、中山英之さんの会場構成で、本作を含む11点を公開中。無休。神奈川県箱根町仙石原小塚山1285。

2021年12月13日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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