2021年、発色現像方式印画、透明メディウム、縦120センチ、横280センチ、作家蔵

 名画に描かれた人になりきってきた美術家、森村泰昌さん。今回は明治期に短い人生を駆け抜けた洋画家、青木繁(1882〜1911年)の「海の幸」(1904年)に飛び込んだ。

 漁師らがもりを手に3匹の巨大サメを担いで行進する同作は青木の代表作。千葉・房総の海で友人が見た光景に着想を得て、巧みな構図で一気に描き上げた。森村さんはこの作品を起点に、明治から大正、昭和、そして現在から未来へと姿を変えていく日本を捉えようとした。その試みはM(モリムラ)式「海の幸」として、この「第1番」から始まる10枚の大作による「変奏曲」でもあり「変装曲」へと結実した。

 本展は、アーティゾン美術館の所蔵品と作家によるコラボレーション企画で、ほぼ新作で構成している。制作期間は新型コロナウイルスの感染拡大期と重なった。チームワークによる制作を主とする森村さんだが、この間はヘアメークから衣装の着脱、写真の撮影まで一人で行った。なりきった人物は総勢85人に上る。本作に登場する10人ももちろん全員、森村さんだ。全身に着彩し、絵の通りになるよう10ポーズを撮影し、背景となるジオラマと合成した。ここから、大正の淑女、戦場の兵士、学生運動の闘士、平成のコギャルと、漁師だった森村さんは1枚ずつ、姿を変えていく。「第9番」はマスク姿の男女、そして最後の1枚に隠されたメッセージは入念な「海の幸」研究に基づく。

 膨大な「海の幸」をめぐる資料や習作、衣装、映像作品からは、今を生きる美術家が過去を生きた同業者とがっぷり四つに組み合う様が浮かび、迫力たっぷりだ。

PROFILE:

もりむら・やすまさ

1951年、大阪市生まれ。85年、ゴッホにふんしたセルフポートレートでデビュー。名画の中の人物や著名人に変装し、独自の解釈を加えて再現する作品で知られる。

INFORMATION

ジャム・セッション M式「海の幸」 —森村泰昌 ワタシガタリの神話

2022年1月10日まで、東京都中央区京橋1の7の2のアーティゾン美術館(ハローダイヤル050・5541・8600)。月曜(1月10日は除く)と、12月28日から1月3日は休館。

2021年10月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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