ロニ・ホーン「あなたは天気 パート2」(部分)2010-2011年 Courtesy of the artist and Hauser & Wirth c Roni Horn

 アイスランドの屋外の温泉で、6週間かけて1人の女性を撮影した。四角い展示室には、縦26・5㌢、横21・4㌢の5~8枚組みの写真が100点、同じ高さに並んでいる。

 いずれも湯につかる女性を真正面から捉えたもの。ある一定の状況でそれぞれ連続して撮影していて、人が見せる繊細で微妙な表情に、たまらなくエモーショナルな感情がわき上がる。

 曇り空の下、柔らかい光につつまれる日、陽光が額を照らす日、湯煙で姿が見え隠れする日。自然のなかで、目がたたえる表情も刻々と変化していく。まぶしそうに目を細めたり、力のこもった視線を投げ返したり、温かい湯に溶けるような柔らかさを備えていたり……。一つ一つを眺めるうちに、これは作者を見つめるまなざしだと気づく。被写体との関係は分からないけれど、少なくとも撮影している間は、身も心も解きほぐされる温泉と同じくらい、親密な感情が行き来していたのだろうと。そしてまた私たちも、親しい誰かを見つめるときは、出かける前の空に目を凝らすように、ちょっとした表情の変化を読み取っているのだろう。

 展覧会名にあるように、水からイメージが広がる作品が多い。近年の代表作である数百㌔のガラスの塊からできた彫刻は、今にも揺らめきそうな光沢をたたえ、窓の外の情景を取り込んで表情を変える。作者が接した文学や慣用句を引用し、水彩で描いてコラージュしたシリーズも、そうだ。断片しか読み取れない文字は、人をかたちづくる体験や記憶が日々入れ替わり、あいまいになり、水が移ろいゆくようだ。

PROFILE:

Roni Horn

1955年、米ニューヨーク生まれ、在住。米現代美術を代表する作家。写真や彫刻、ドローイングなど多様なメディアで制作。ポンピドゥー・センター(パリ)やテート・モダン(ロンドン)、ホイットニー美術館(ニューヨーク)など世界各地で個展を開催。

INFORMATION

ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?

2022年3月30日まで、神奈川県箱根町仙石原小塚山1285のポーラ美術館(0460・84・2111)。会期中無休。

2021年10月18日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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