「サーフィン」2006年 illustrated by Mizumaru Anzai (C)Masumi Kishida

【アートの扉】
安西水丸「サーフィン」
知的なのに脱力

文:平林由梨(毎日新聞記者)

デザイン

 ゆれる細い線とやわらかな影、わざとぎこちなく切ったり、少しずらしたりして貼られたカラートーン。都会的なのに温かく、知的なのに脱力している。身近なものを巧みに配置したシンプルなイラストレーションには安西さんの魅力が凝縮されている。

 1970年代からイラストだけでなく本の装丁や広告、漫画や小説、絵本の執筆まで幅広く活躍をした安西さん。本展は、そんなイラストレーター の幼少期から晩年にいたる足跡を600点を超える作品や資料からたどる。

 東京・赤坂に7人きょうだいの末っ子として生まれた。ぜんそくが悪化し、3歳で千葉県千倉町(現・南房総市)に引っ越した。刻々と色を変える海、潮のかおり、豊かな里山に囲まれて過ごした少年時代だったという。

 ほとんど、と言えるほど、イラストには安西さんが「ホリゾン」と呼んだ画面を横切る線が見える。この線には、小さな雑貨などを組み合わせて描くとき、机などに置かれていることを示すことができる効果がある。しかし、その効果以上に、展示室をめぐっていると、のびやかに広がっていくこの水平線は安西さんそのものだ、という感慨が込み上げてくる。「ホリゾンを引くとき、千倉の海の水平線が目に浮かぶ」と生前、安西さんは語っていた。

 これまで5館を巡回してきた本展。世田谷文学館はアトリエに残されたオブジェや取材手帳、愛用の民芸品などここでしか見られない資料を充実させた。小学生のころに描いたポスターや絵画もあり、そこにもしっかりと「ホリゾン」が刻まれている。

PROFILE:

安西水丸(あんざい・みずまる)(1942~2014年)

本名は渡辺昇。イラストレーター。日本大芸術学部卒業後、電通に入社。渡米、平凡社勤務を経て39歳でフリーランスに。本展では嵐山光三郎、村上春樹、和田誠らとの親交から生まれた作品も紹介している。

INFORMATION

イラストレーター 安西水丸展

9月20日まで、東京都世田谷区南鳥山1の10の10の世田谷文学館(03-5374-9111)。月曜(8月9日、9月20日を除く)、8月10日休館
※現在は終了しています。

2021年6月28日 毎日新聞 東京夕刊

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