「単龍環頭大刀柄頭」古墳時代(6世紀中頃~後半) 愛知県美術館蔵

【アートの扉】発見!お宝愛知県美術館/4止 「単龍環頭大刀柄頭」木村定三氏の眼力

文:由良濯(ゆらあろう)(愛知県美術館学芸員)

コレクション

考古

 愛知県の美術品収集家である木村定三(ていぞう)氏は、自らの芸術観に基づいて美術品を収集し、一大コレクションを築いた。重要文化財3件を含む木村氏のコレクションは愛知県美術館でも重要な位置を占めている。木村定三コレクションのうちの1点である「単龍環頭大刀柄頭(たんりゅうかんとうたちつかがしら)」は、金宇大・滋賀県立大准教授の調査により、韓国・公州(コンジュ)の武寧王(ムリョンワン)陵で出土した現存最古とされる柄頭に製作時期が最も近いことが判明した。

 武寧王陵出土の柄頭は、6世紀初頭に作られたとは思えないほど造形が美しいが、時代が下るにつれて柄頭の装飾は次第に形骸化していく。当館の柄頭は竜の牙や三つの束に分かれた顎毛(がくもう)がはっきりと確認でき、輪の部分に張り巡らされた2頭の竜が尾をかみ合う文様も武寧王陵刀に通ずる。惜しむらくは、この柄頭がどこで出土したのか分からないことであるが、武寧王陵刀とここまで文様や意匠の特徴を一致させる作例は国内外になく、工法も共通しているため、朝鮮で製作された可能性が高い。また、完成度の高い武寧王陵刀が特異な作例ではないことが明らかになったという点においても学術的意義が大きい。今後の保存処理でサビが取れて輪の部分の文様がより判別できるようになれば更なる発見も期待できるだろう。

 木村氏の環頭大刀柄頭のコレクションは刀身があるものを含めて5点しかないが、そのうちの1点がこれほど貴重なものであるとは。その眼力に驚くばかりである。絵画や彫刻だけでなく考古遺物に対してもそこに宿る何かを見ることができたのだろう。

<ことば>

単龍環頭大刀柄頭

 環状の装飾部品が付いた大刀の柄頭。竜の文様の他、鳳凰(ほうおう)のものもある。古墳時代後期、儀式に用いられ、渡来した職人から日本に伝えられた。量産化とともに装飾や文様は次第に簡略化されていった。

INFORMATION

愛知県美術館(052・971・5511)

本作は、27日まで開催する「2021年度第1期コレクション展」で展示している。同日まで、同館と横浜美術館、富山県美術館の収蔵品から20世紀の西洋美術史をたどる「トライアローグ」展も開催中。休館は月曜。名古屋市東区東桜1の13の2。

2021年6月14日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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