グスタフ・クリムト「人生は戦いなり(黄金の騎士)」1903年、油彩・テンペラ・金箔(きんぱく)、画布、縦100㌢×横100㌢=愛知県美術館蔵

 黄金の騎士が主役のこの作品は、クリムトの個展としてウィーンで開催された1903年の「分離派展」で初公開された。この時、この絵と同様に黄金の騎士が登場する「ベートーヴェン・フリーズ」や、ウィーン大学の天井画「哲学」「医学」「法学」の3点も全てそろった形で初展示された。

 なにか新しいことを始めるとたたかれるのはいつの時代にもある話。クリムトは、同大学講堂のために三つの学部(哲学、医学、法学)を表す天井画を依頼されていた。ところが「哲学」や「医学」を伝統とかけ離れたやり方で描いたため、00年と翌年にそれらをお披露目すると、ご多分に漏れずたたかれてしまった。さらに02年に壁画の大作「ベートーヴェン・フリーズ」を公開すると、またしてもたたかれてしまう。

 ウィーンの分離派館を訪れると、今でも「ベートーヴェン・フリーズ」を見ることができる。コの字形に配されたこの壁画では、正面の壁に描かれたテュフォンやゴルゴーンといった怪物たち(敵対する力)に対し、左壁面の黄金の騎士が戦いに挑もうとしている。本作には、この対決の構図が縮約されており、怪物こそ描かれてはいないものの、行く手には敵対する力が確かに存在することが、地をはって迫り来る蛇によって暗示されている。クリムトは03年の個展において「ベートーヴェン・フリーズ」の騎士にこの作品の騎士を加えることで敵対する力に立ち向かう自らの姿勢をいっそう強く示そうとしたのである。

PROFILE:

グスタフ・クリムト(Gustav Klimt)(1862~1918年)

オーストリア生まれ。世紀末のウィーンで活動した分離派を代表する画家。官能的な作品で知られるが、風景画も多く描いている。金を多用するなど日本美術からの影響も強い。

INFORMATION

愛知県美術館(052・971・5511)

本作は、6月27日まで開催する「2021年度第1期コレクション展」で紹介している。同日まで、同館と横浜美術館、富山県美術館の収蔵品から20世紀の西洋美術史をたどる「トライアローグ」展も開催中。休館は月曜。名古屋市東区東桜1の13の2。

2021年5月24日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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