コンスタンティン・ブランクーシ「空間の鳥」1926年(82年鋳造) ブロンズ、大理石、石灰岩 縦132・4㌢、横35・5㌢、奥行き35・5㌢

 動物や人物を極限まで単純化した造形表現によって20世紀美術に大きな影響を与えたブランクーシ。その創作活動の中核をなす連作が「空間の鳥」である。

 ブランクーシは、1923年から20年近くにわたって、形状や素材を変えながらこの連作に取り組み続け、最終的に十数種の同名作を遺(のこ)している。横浜美術館所蔵の1点は、そのうち26年制作の石膏(せっこう)像を原型として、作家の没後に元助手の監修下で鋳造されたもの。ゆるやかな弧を描いて天に伸びあがるその形態はこの上なくスタイリッシュで、「シンプル・イズ・ビューティフル」という格言を見事に体現している。

 本作をめぐっては、いまも語り草となっている逸話がある。この話は、26年にアメリカの著名な写真家がパリのブランクーシのアトリエを訪れて同作(当館所蔵作と同じ原型から鋳られたもの)を購入し、作品を自国に持ち込んだことに端を発する。当時、アメリカの関税法では絵画や彫刻は無税だったが、ニューヨーク港の税関は本作を彫刻ではなく「金属製品」と見なし、40%の関税を課したのである。それを不服としたブランクーシはアメリカを相手取って提訴、本作が「芸術か否か」をめぐって1年余にわたり法廷で論争が交わされた末、ブランクーシ側が勝訴した、という顚末(てんまつ)である。

 当時、アメリカではまだ「抽象彫刻」という概念が浸透していなかったことを示しているが、この判決を機にヨーロッパの最先端のアートがアメリカに続々ともたらされ、後にアメリカ美術の隆盛に一役買うことになった、とも言われる。

PROFILE:

コンスタンティン・ブランクーシ(Constantin Br=ncu=i)(1876~1957年)

ルーマニア南西部の田舎町に生まれる。パリのロダンの工房で短期間働いたのち、形態の単純化を旨とする抽象彫刻の制作に着手。その造形志向は、死去した後も世界中の芸術家たちに影響を与え続けた。

INFORMATION

横浜美術館(改修休館中)

横浜、愛知県美術館、富山県美術館の3館の収蔵品から20世紀西洋美術史をたどる「トライアローグ」展は、愛知(4月23日~)、富山(11月20日~)で開催。本作も出品される。横浜での会期は終了した。横浜市西区みなとみらい3の4の1。
※「トライアローグ」展(横浜美術館、愛知県美術館)は終了しました。

2021年3月22日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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