=木奥惠三氏撮影

【アートの扉】 川内倫子 M/E押し寄せる生命

文:高橋咲子(毎日新聞記者)

写真

現代美術

 展示会場に足を踏み入れたとき、室内にもかかわらず、氷のつぶがきらきらと舞っているように感じた。

 川内倫子の写真は、やわらかな光に生きる喜びが満ちている。展覧会タイトルの「M/E」は、「Mother Earth(母なる大地)」の頭文字だという。

 米ロサンゼルスや宮城・石巻、熊本・阿蘇に滋賀。移動しながらその土地に身を浸し、撮影してきた。「地域や国というくくりではなく、ひとつの星の上に在るということを」(作家の言葉)確かめたくて、2019年夏に訪れたアイスランド。「地球の息吹を感じる間欠泉や、人間の持つ時間を遥(はる)かに超える氷河を目の当たりにすることで、自分の存在が照らされたようだった」と記している。

 展示室の広い空間をあえて狭く区切ったり、薄い布を垂らしたり。建築家の中山英之が作家と話をしながら空間設計を手がけたといい、水音や雷鳴も用いて自然のなかを歩いている気になる。

 本展と同名の新作「M/E」のシリーズはアイスランドや北海道、千葉県の自宅近くで撮影した。青い氷山や飛行機から見たはるかな大地、軒先のつららに葉の上の露。手のひらから、見上げるような頭上から、生命の営みが押し寄せる。

 阿蘇の野焼きを撮影した代表作の一つ「あめつち」のほか、米国で滞在制作した日本初公開のシリーズ「4%」や未発表作も含む約10年の足跡を展示する。

PROFILE:

かわうち・りんこ

写真家。1972年、滋賀県生まれ。2002年木村伊兵衛写真賞。13年芸術選奨文部科学大臣新人賞。「照度 あめつち 影を見る」(東京都写真美術館)、「川が私を受け入れてくれた」(熊本市現代美術館)など個展多数。

INFORMATION

川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり

12月18日まで、東京都新宿区西新宿3の20の2、東京オペラシティアートギャラリー(ハローダイヤル050・5541・8600)。月曜(祝日の場合は翌火曜)休館。

2022年10月24日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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