ジャスパー・ジョーンズ「標的」 1974年 スクリーンプリント、紙 縦88・6㌢、横69・6㌢ 横浜美術館蔵 Ⓒ Jasper Johns/VAGA at ARS, NY/JASPAR, Tokyo 2020 C3415

 ジャスパー・ジョーンズは、1958年から現在に至るまで、アメリカのアートシーンの第一線で活躍する画家である。デビュー当初から射撃訓練用の標的や、星条旗、1から10までの数字など、西洋絵画の伝統を覆すようなモチーフを描き、美術界に大きな衝撃を与えた。

 60年代になると、作家は自作の絵画や彫刻をもとにした版画を制作するようになる。「標的」はその典型作の一つで、もとになった絵画はセゾン現代美術館(長野県)が所蔵している。

 本作に使われているスクリーンプリントという技法は、金属や木製の枠に張られたスクリーンを版として画面を構成する版画技法の一種である。ジョーンズは、スクリーンに手描きする手法で27枚もの版を制作した。それらの重なりでできた画面は、まるで紙に直接描いたものではないかと錯覚させるほど緻密だ。画面の所々にしたたるインクの表現も特色で、均質に絵柄を刷ることができるこの技法でも、「描く」ことにこだわる作家の強い意思が表れている。

 このような作品を制作できた背景には、戦後アメリカにおいて新しい版画工房が台頭したことがあげられる。それぞれが高い技術力を誇り、数多くのアーティストと協働した。その中でもこれは、日本人のプリンターがニューヨークに設立したシムカプリントアーチスツで制作されたものだ。ジョーンズはスクリーンプリント作品をすべてこの工房に依頼した。ジョーンズとの協働には一点の狂いも許されない仕事が求められたというが、本作は作家と日本の深いつながりを示す作品でもある。

PROFILE:

ジャスパー・ジョーンズ(Jasper Johns)

1930年生まれ。星条旗、標的、数字などを描いた絵画は、第一次世界大戦中にヨーロッパで反芸術を唱えたダダになぞらえネオ・ダダと評された。高松宮殿下記念世界文化賞など受賞。

INFORMATION

横浜美術館(045・221・0300)

横浜、愛知県美術館、富山県美術館の3館の収蔵品から20世紀西洋美術史をたどる「トライアローグ」展は2月28日まで。本作など約120点を紹介。休館は木曜(2月11日を除く)と2月12日。愛知、富山にも巡回。横浜市西区みなとみらい3の4の1。
※「トライアローグ」展(横浜美術館、愛知県美術館)は終了しました。

2021年1月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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