歌川国芳「木曽街道六十九次之内 守山 達磨大師」 嘉永5年(1852年) 太田記念美術館蔵

 橙(だいだい)色の袈裟(けさ)を着たひげ面の男性が、もりそばを食べている。この人物の正体は、達磨(だるま)大師。インドから中国へ渡り、禅宗を伝えた僧侶である。壁に向かって9年間も座禅を組み、悟りを開いたという「面壁(めんぺき)九年」の逸話で有名だ。江戸時代の庶民たちにはなじみのあるキャラクターで、浮世絵では、遊郭の花魁(おいらん)と一緒にいる姿がしばしば描かれている。

 この達磨、木曽街道の守山宿(現在の滋賀県守山市)にあるそば屋で食事中である。右側のせいろはすでに空っぽで、もう20人前近くは食べ終わったようだ。目の前に10人前のせいろが積まれているのに、さらに追加オーダー。そばを運ぶ店員も、「ぺろりと食べてしまいそうだなあ」と、達磨の大食漢ぶりに戸惑い気味の表情である。

 さて気になるのは、なぜ達磨がそばを食べているかだ。実はこの「木曽街道六十九次之内」というシリーズは、宿駅名の語呂合わせとなる場面を描く趣向となっている。例えば、蕨(わらび)宿であれば、藁(わら)に火がついた場面が描かれるように。

 国芳は、「守山」という宿駅名から、もりそばが山盛りになっているのを想像したのだろう。さらに、そばを入れる器は「へぎ」とも呼ばれていることから、麺とへぎで「面壁」、すなわち、面壁九年の達磨を連想して、達磨がそばをすする場面を思い付いたと推測される。

 かなり強引なダジャレだが、この底抜けのばかばかしさこそが、国芳の真骨頂。作品を見た江戸っ子たちも、「なんでこれが守山なんだい」とちょっと頭をひねって、その後すぐに大笑いしたことだろう。

PROFILE:

歌川国芳(うたがわ・くによし)(1797~1861年)

江戸時代に活躍した浮世絵師。武者絵の第一人者である。洋風表現を取り入れた風景画や、動物を擬人化した戯画、世相をやゆした風刺画などでも話題を集めた。猫好きとしても知られる。

INFORMATION

太田記念美術館(ハローダイヤル050・5541・8600)

日本らしい風景や文化を描いた浮世絵を集めた「ニッポンの浮世絵」展が開催中。国芳のこの作品も見ることができる。13日まで。東京都渋谷区神宮前1。
※現在は終了しています。

2020年12月7日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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