窓辺の花々に差し込む柔らかな光に、孤独な静けさが漂う。写真家で映像作家の奥山由之さんによる『flowers』(2021年、赤々舎)は、花を介した亡き祖母との対話がテーマの写真集。その再版に合わせ、京都市中京区のアートスペース「PURPLE」で個展が開かれている。

写真集『flowers』(赤々舎)より ⒸYoshiyuki Okuyama
写真集『flowers』(赤々舎)より ⒸYoshiyuki Okuyama

 奥山さんは1991年、東京都出身。11年に写真新世紀優秀賞、16年には講談社出版文化賞を受賞するなど20代の頃から活躍し、CMやミュージックビデオなど映像作品でも知られる。

 『flowers』には、2種類の写真が収められている。家の中のさまざまな場所を捉えた写真と、窓辺に飾られた花々の写真。前者は祖母の視線を、後者は奥山さん自身の視線を表現し、2人の視線が行き交うような構成にしたという。

「flowers」展の展示。ぽつんと置かれた椅子が「不在」を強く印象付ける
「flowers」展の展示。ぽつんと置かれた椅子が「不在」を強く印象付ける

 9年前に亡くなった祖母と、もっと一緒に時間をすごし、話をすればよかった――。祖母がいなくなった家で過ごすうち、後悔が胸をよぎった。祖母の「目」で室内を撮ることで気持ちを想像しようと、大型カメラを三脚に据え、フォーカスを合わせず撮影した。

 対照的に、花の写真では小型の110(ワンテン)カメラを使った。廃棄する花の撮影依頼を受けた時、祖母が窓際に花を飾っていたことを思い出し、同じように花を飾って撮影を始めた。「世界とふれあうことで、人は自分の存在を確認する。静かな家で一人過ごした祖母は、そこに存在している感覚みたいなものが薄らいでくることもあったのかもしれない」。撮影するうち、祖母との「対話」は自分自身との対話でもあり、「自分の奥底に潜っていく」行為だと感じるようになったという。

 『flowers』は3部作の第1作で、今年刊行した第2作『windows』では窓を通して東京に暮らす不特定多数の人々を描いた。現在は3作目を撮影中。「3部作に通底するのは、人以外のものを通して人を描くということ。人そのものを撮ることでその人が描けているのかという疑問が、常に自分の中にあります」。個展は26日まで。

【ART】奥山由之さん『flowers』

2023年11月6日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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