伊藤若冲 雪中雄鶏図 江戸中期=細見美術館蔵

【ART】目利きが愛した江戸の奇想開館25周年、京都・細見美術館で記念展

文:山田夢留(毎日新聞記者)

日本画

日本美術

 優れた日本美術のコレクションで知られる細見美術館(京都市左京区、細見良行館長)は今年、開館25周年を迎えた。「日本美術の教科書」とも称される幅広いコレクションのうち、江戸絵画にスポットを当てた記念展「愛(いと)し、恋し、江戸絵画―若冲・北斎・江戸琳派」が開かれている。ブーム到来のずっと以前から、確かな目で集められた名品が並ぶ。11月5日まで。

■   ■

 細見美術館は、毛織物業で財を成した大阪の実業家、細見家三代によるコレクション約1000点を有する。細見館長の祖父、細見良(1901~79年、初代古香庵)が仏教美術や金工品など中世美術を中心に収集し、父の細見實(みのる)(22~2006年、二代古香庵)は太平の世に描かれた江戸絵画を好んだ。

伊藤若冲 瓢簞・牡丹図 江戸中期=細見美術館蔵

 25周年記念の企画展は2期にわたって開かれ、1期目の本展は約60点を展示する(会期中展示替えあり)。「瓢簞(ひょうたん)・牡丹(ぼたん)図」は昭和40年代に實が伊藤若冲に開眼し、収集を始めるきっかけとなった作品。瓢簞は黒々とした葉とユニークな形の実が対比を成し、牡丹には墨のにじみを生かした若冲の技法「筋目描き」が使われている。「動植綵絵(どうしょくさいえ)」を手がけていたのと同じ頃、40代後半の作品とみられており、精密な彩色画と並行してひょうひょうとした水墨画表現にも取り組んでいたことがわかる。

鈴木其一 朴に尾長鳥図(部分)江戸後期=細見美術館蔵

 「雪中雄鶏図」は初期の代表作。細見さんは「若冲を名乗る前なのに、すでにエキセントリック。どこから見ても京風な絵を描いた円山応挙と対照的だが、生粋の京都の人がアバンギャルドに走るのは実は珍しくない」と解説する。細見さんが「一番の奇才。なんという発想の持ち主だ、と思う」と挙げるのが、江戸琳派の鈴木其一。西洋画のような「朴(ほお)に尾長鳥図」、「描表装(かきびょうそう)」で絵と表具を融合させた「歳首の図」、絵巻物を一つの画題でパノラマのように描いた「四季歌意図巻」などが展示されている。

■   ■

 「開館した25年前、国内は西洋美術一辺倒で、日本美術はマイナーなサークルだった。必ず『印象派はないんですか』と聞かれ、ないと言うと落胆された」と細見さん。旧財閥系の美術館などに比べ安定した財政基盤がない中での苦労を振り返りつつ、「ここ15年は若冲のおかげで何とか生き延びてきた」と語った。葛飾北斎の肉筆画「五美人図」や酒井抱一「白蓮(びゃくれん)図」なども展示。25周年記念展の第2期(11月14日から)は細見良が愛蔵した仏教美術などを特集する。

2023年9月25日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする