ニキシー管を使った「生ましめんかな」

 現代美術の分野で平和に貢献した作家をたたえる「ヒロシマ賞」の第11回(2018年度)受賞者、アルフレド・ジャーさんの受賞記念展が、広島市現代美術館で開かれている。被爆都市「ヒロシマ」をテーマにした作品はどれも見る者の五感を揺さぶり、平和の尊さと、そのもろさを伝えてくる。

 ジャーさんは1956年、チリ・サンティアゴ生まれ。建築と映像制作を学び、82年に渡米した。戦争や大量虐殺、難民など世界の諸問題と対峙(たいじ)する作品を制作。95年に同館で開催された被爆50周年記念展への出品を機にヒロシマにも目を向けてきた。

 展覧会は「われらの狂気を生き延びる道を教えよ」(95―2023年)で幕を開ける。大江健三郎が詩人W・H・オーデンの詩を翻訳し、短編集のタイトルにもなった言葉をネオン管で表現。我々大人が果たせずにいる、核の時代を終わらせるという命題を、子どもたちに託したい――。白に一部赤を配したシンプルだが印象的な文字デザインに、そんなメッセージを込めた。「心掛けているのは情報と詩のバランス」とジャーさん。「一つのアイデアにフォーカスすることが重要だ」とも語る。

 「徐々に強度を増していくように」展覧会の構成を考えたという。「生ましめんかな」(23年)は反核を訴えた詩人・栗原貞子の詩から生まれた。暗闇に浮かんだ数字が0までカウントダウンした後、雨のように明滅。原爆で失われた多くの命を想起させる「0」が消えると、「生ましめんかな」の文字が現れる。「ヒロシマ、ヒロシマ」(23年)では、ドローンで広島市街を上空から撮影。原爆ドームにゆっくりと降下していく映像にいや応なく緊張感は高まり、その後吹き付ける強い風で極限に達する。「次の核戦争が近付いていることを示唆した」という。

広島で生まれた82人の新生児の産声が、生まれた時刻に再生される「Music(Everything I Know I Learned the Day My Son Was Born)」(2013/2023)の展示風景とアルフレド・ジャーさん

 記者会見でジャーさんは「今また核兵器の使用が取り沙汰されているのは無責任極まりない、罪深いことだ。ヒロシマの光は核兵器を決して使ってはいけないという道を示してくれる」と語った。グローバルサウスに目を向けてきたジャーさんの代表作3点も展示。10月15日まで。

2023年9月11日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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