本橋成一「羽幌炭砿北海道羽幌町」<炭鉱>より1968年 ⒸMotohashi Seiichi

 市井の人々を記録してきた写真家・映画監督の本橋成一さん(1940年生まれ)と、「パリ」を捉えた写真家として知られるロベール・ドアノー(12~94年)。2人の意外な出会いを紹介する「本橋成一とロベール・ドアノー交差する物語」が東京都写真美術館で開催中だ(24日まで)。同展関連イベントとして、『<パリ写真>の世紀』(白水社)の著書がある今橋映子・東京大大学院教授が両者の作品に共通するまなざしについて語った。

 ドアノーが生まれたパリ郊外ジャンティイは、城壁の外にあり、貧しい人々が暮らす「ゾーン」と近接するエリアだった。そうした出自から「郊外人としての矜持(きょうじ)を持ち、マージナルな人々に共感を寄せた」写真家だったという。

 用いたのは2眼の「ローライフレックス」。正方形のフォーマットを持つカメラのため、意図しないできごとが写り込む面白さもあった。今橋教授は「蝶々(ちょうちょう)エリの子ども」などを例に、背景を眺め尽くすことで、見る人が自由に物語を紡ぎうるのがドアノーの写真だと説明した。また、撮影には演出や仕掛けを用いたこともあったが、それが「『非演出』より価値が低いわけではない」と付け加える。

ロベール・ドアノー「蝶々エリの子ども、サン・ドニ」1945年 ⒸAtelier Robert Doisneau/Contact

 両者には、炭鉱や市場、サーカスなど共通する主題があり、展示室では、周縁に生きる人を見つめる2人の視線が重なる。本橋さんの「屠場(とば)」シリーズについて今橋教授は「一つの職場としての細部、そして、そこで生きていく確かさみたいなものをつかまえて撮った。それは間違いなくドアノーと交差するものだと言える」と評価。その上で「2人の仕事を見れば、何かを告発するのではなく、肯定することも報道写真家の大切なテーマだと分かる」と言う。

 今橋教授が示すのは、それぞれの写真が持つ今日的な意味だ。「人は自分が置かれた生を逃れられない。生を生き抜くこと、日々を積み重ねることは何よりもすばらしいと思うんですね。コロナ禍や不条理な戦争が起きるなか、タイムリーな展覧会だと言えます」

2023年9月4日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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