秦テルヲ「慈悲心鳥の唄」(1923年ごろ)の展示風景=山田夢留撮影

 京都の老舗ギャラリー「星野画廊」(京都市東山区)は、近現代の埋もれた名作に光を当て世に送り出してきた〝発掘画商〟として知られる。開廊50周年を記念し、特別展「発掘された珠玉の名品 少女たち―夢と希望・そのはざまで 星野画廊コレクションより」が、京都文化博物館(同市中京区)で開かれている。

 星野画廊は星野桂三・万美子さん夫妻が1973年に開設。「作家名ではなく作品本位に評価を定める」をモットーに、明治~戦前期の画家を紹介する「忘れられた画家シリーズ」などの展覧会を開催してきた。岡本神草(しんそう)(1894~1933年)も取り上げられた画家の一人。桂三さんが古美術交換会で見つけ、現在は京都国立近代美術館に収蔵されている「拳を打てる三人の舞妓(まいこ)の習作」(20年)などで知られる、大正京都画壇の異端児だ。本展は、その関連作とみられる「拳の舞妓」(22年ごろ)で幕を開ける。

岡本神草「拳の舞妓」(1922年ごろ)

 タイトルは「少女たち」だが、いわゆる少女たちを描く作品ばかりではない。秦(はだ)テルヲ(1887~1945年)の「渕(ふち)に佇(たたず)めば」(17年)は苦界に身を沈め、絶望の淵にたたずむ娼婦(しょうふ)を描く。東京で社会の底辺に生きる人々を描いていた秦は、結婚を機に京都と奈良の県境に移住。退廃的な画風は一変し、母子像や仏画を描くようになった。桂三さんは40年以上前に客が持ち込んだ秦の自画像を見て衝撃を受け、以来、調査と収集を続けてきた。「慈悲心鳥の唄」(23年ごろ)は「一つの境地を描いた代表作だと思う」と話す。

 121点の出品作の中には経歴が詳しくわかっていない作家の作品はもちろん、作者不詳の作品もある。「みんな知ってるものじゃなくて知られへんものにこそ、なんかええもんがあるんやないか、という姿勢でやってきた」と桂三さん。6月には近代美術の発掘史といえる「星野画廊50年史 明治・大正・昭和 発掘された画家と作品」(青幻舎)を出版し、「まだまだ出せていない作品があり、大々的に回顧展をしたい作家がいる」と話す。本展は9月10日まで。その後、福島、高知の県立美術館など全国5館を巡回する。

2023年7月31日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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