【ART】阪大生らと「適塾」体現森村泰昌さん初のパブリックアート

文:山田夢留(毎日新聞記者)

パブリックアート

現代美術

 森村泰昌さんが今春、初のパブリックアートを手がけた。設置場所は大阪大学発祥の地に立つ同大施設で、テーマは同大のルーツである幕末の私塾「適塾」。三幅対の作品の2点は、適塾を開いた緒方洪庵と妻八重に森村さんが扮(ふん)するセルフポートレートだが、中央の作品には現役の学生や子どもたちが参加した。「私」以外を介在させる、森村作品としては異例の手法で、過去・現在・未来を一つの画面に映し出した。

 「適塾の集い」は「大阪大学中之島センター」(大阪市北区)の改修にあわせ、今年4月、吹き抜けの階段スペースに展示された。縦約2メートル、横約2・7メートルの「塾生たち」は、現存する「適塾」(大阪市中央区、重要文化財)で撮影。書物を手にした洪庵を囲み、真剣な面持ちで身を乗り出す塾生たちが、新時代前夜の高揚感を感じさせる。光と影が印象的な構図のベースは、レンブラントの「テュルプ博士の解剖学講義」(1632年)。森村さんの「肖像(九つの顔)」(1989年)も同作がベースだが、この時は自身がすべての人物に扮した。一方、今回は塾生役を大阪大で公募。専攻も学年も、国籍も性別も異なる7人が、福沢諭吉や大村益次郎らに扮した。

 「セルフポートレートは『私とは何か』と自分の中へ入っていくが、今回は外に開かれた場所に展示するので、視点も開かれたものにしようと考えた」と森村さん。「福沢も大村も当時は名もなき若者で、何年か後に時代を担う存在になった。この学生たちもまさに同じで、次の時代を生きていく人たち。プロジェクト自体が適塾的なものになったと思う」と話す。

 7人はそれぞれの人物を象徴するモノを手にしている。大村は六分儀と好物の豆腐。森村さんらしいウイットが光るが、それだけではない。「単に『幕末は面白い』ではなく、受け継ぐべきものとそうではないものは明確にしておきたかった」。陸軍の創始者でもある大村の、優れた技術者としての顔や柔軟な発想力だけを評価するというメッセージを込めた。

 作品には適塾という「過去」と学生たちの「現在」、そして「未来」も表現されている。障子の向こうからこちらをのぞくのは、7人の子どもたちだ。「作品はフィックスされているが中の人たちは止まらないのが写真の面白さ。ここから始まる作品なんです」。開館時間は午前8時半~午後9時半で、見学自由。

2023年7月3日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする