「伊達競阿国戯場(だてくらべおくにかぶき)累(かさね)」高知県香南市赤岡町本町二区蔵。姉・高尾の怨念(おんねん)で容貌が醜く変わってしまった累(中央)。絵金は物語の続きを背景に描き込み、ストーリーとして楽しめる工夫も凝らした

 幕末から明治初頭の土佐で活躍した絵師・金蔵(1812~76年)、通称「絵金」。人々の最大の娯楽であった芝居をドラマチックに、時におどろおどろしく描いた屛風(びょうぶ)や提灯(ちょうちん)は、今も年に1度、高知の夏祭りの夜を彩っている。「奇才」として近年注目が高まりつつある絵金の、県外では約半世紀ぶりとなる展覧会「幕末土佐の天才絵師 絵金」が、あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区)で開かれている。18日まで。

 狩野派に学び、土佐藩家老の御用絵師となった絵金は、30代で身分を剝奪された後、町絵師として芝居絵屛風や絵馬提灯を制作したとされる。ただ、いつごろどこで描いていたのか確たる史料は残っておらず、「謎の天才絵師」と称されることも。1966年、雑誌『太陽』での特集をきっかけにブームが起きた際は、東京や大阪の百貨店で絵金展が開催された。地元高知には200点以上の絵金と弟子の作品が残され、今でも約10の地域の夏祭りで、商店街の軒下や神社の境内に飾って楽しむ風習が続く。

 第1章では、高知県香南市赤岡町に残る最高傑作と名高い屛風を特集。「菅原伝授手習鑑」や「義経千本桜」など現代でも人気の演目のハイライトとなる場面が描かれた作品は、着物の色や血しぶきなどに用いられた赤が目を引く。絵金が独自に配合した絵の具を用いたと伝えられてきたが、X線による調査で一般的な日本絵の具であることが判明。創造広場「アクトランド」(同市)の横田恵学芸員は「印象的に見えるのは配色の巧みさによることがわかってきた」と話す。

【ART】土佐の奇才、「絵金」の赤 芝居絵屛風や絵馬提灯 大阪で展覧会

 第2章では会場にやぐらを組むなどして高知の夏祭りの夜を再現した。行灯(あんどん)の和紙に芝居絵を描いた絵馬提灯は、現存するものが非常に少ない貴重な作品。あべのハルカス美術館の藤村忠範上席学芸員は「絵金が描く残酷な絵は、あくまで芝居の一場面をエンターテインメントとして描いたもので、猟奇的ではない。むしろ、芝居を愛する高知の人々を楽しませようという温かい気持ちを感じる」と話す。色のイメージが強い絵金による白描画や、芝居絵以外の作品も並ぶ。

2023年6月12日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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