「セオリー・オブ・スカルプチャー(カウンティング)」の展示。手前は「7可逆性」(1972年)

【ART】
モノと概念、考える楽しみ メル・ボックナーの初期彫刻

文:山田夢留(毎日新聞記者)

彫刻

現代美術

 モノとしての作品より作家のアイデアやコンセプトを重視する「コンセプチュアルアート」は、1960年代に米国で始まり、国際的な潮流となった。そのパイオニアの一人で、50年以上、中心的存在として活動してきたメル・ボックナーの初期の彫刻作品が、国立国際美術館(大阪市北区)で展示されている。彫刻といっても床の上に並ぶのは、自然のままの石と数字。どこにでもあり、誰にでも使えるモノと概念が、鑑賞者を思考する楽しみへと導く。

 ボックナーは40年、米国生まれ。66年、ニューヨークで初めて開いた展覧会に、アーティスト仲間のドローイングをコピーしてファイルにまとめた「必ずしも芸術として見られる必要のないワーキング・ドローイングとそのほかの視覚的なもの」と題する作品を発表した。コピー機による複製が作品といえるのか。議論を呼んだこの展覧会は、コンセプチュアルアートの最初の展覧会とされる。

 本展では、豊田市美術館(愛知県)所蔵の同作品と、国立国際美術館が新たに収集した「セオリー・オブ・スカルプチャー(カウンティング)&プライマー」(69~73年)を展示する。一直線や円形など20のパターンで並べられた石の周りに、チョークで数字や線が書かれた「セオリー――」には、「測ること五つ」「10への十」などの副題があり、思考のきっかけを与えてくれる。会場入り口に展示されている「プライマー」が指示書となるドローイングで、今回同館がモノとして収集したのはこのドローイングのみ。彫刻は、その都度素材を調達する。

 来日したボックナーは「ほとんどの彫刻は一つだが、そうでなくてもいい。20年ごとに破壊と再生を繰り返す伊勢神宮のアイデンティティーは、物質的な存在によらない」と語り、式年遷宮を例に自作を解説した。「言葉と数字は誰にでも属しているが、使い方だけは自分のものと言える」とボックナー。「数える」のラテン語「カルクルス」は「石」を意味する言葉でもあることや、手の存在を感じさせる5や10が多用されていることなど、複層的な意味を読み解くのも面白い。21日まで。

2023年5月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする