佐藤翠と守山友一朗の展示風景
佐藤翠と守山友一朗の展示風景

 触れること、生きることやケアすること……。コロナ禍でもたらされた生活様式や意識の変化を展覧会も反映してきた。本展も「ステイホーム」を経ていっそう意識するようになった、部屋がもたらす安心感や閉塞(へいそく)感、内と外と「私」や「あなた」の関係をすくい取ろうとする。

 展示室に入ると、マティスが描いた物憂げな女性の絵が最初に目に付いた。この一角にある19世紀後半から20世紀前半の作品には、たくさんの女性が登場する。マティスやボナール、ヴュイヤール、ハマスホイが描いたのは、入浴していたり、読書をしたり、ピアノを弾いたりする女性たち。私的な空間だからこそ、女性の物語や描き手との関係を想像させる。一方、描かれるだけでなく、モリゾのように女性がいる日常を自ら描いた女性作家も紹介する。

 近代のパートと、現代作家のパートを結ぶのが、佐藤翠(1984年生まれ)と守山友一朗(同)。守山が描くじゅうたんの柄やソファに座る女性のワンピースの花柄と、佐藤が描く部屋の内外の植物。室内と外の自然、佐藤と守山、二つの要素が溶け合うように世界が拡張する。

髙田安規子・政子「Inside−out/Outside−in」(2023年)ⒸAkiko & Masako Takada/ⒸKen KATO
髙田安規子・政子「Inside−out/Outside−in」(2023年)ⒸAkiko & Masako Takada/ⒸKen KATO

 部屋で過ごす時間が多くなると、よく知っているはずの自室も、光の移ろいと共に新たな表情を見せることに気づく。ティルマンス(68年生まれ)はアトリエに差し込む外光がつくる窓の影に、さまざまな造形を見いだしたが、この写真に情緒的な感情が呼び覚まされるのは、あの時間を経たからこそだろう。髙田安規子・政子(ともに78年生まれ)は、壁一面に無数の小さな窓を設けた。そこからは外の景色が見えるのに、明かりがともっている。ここで見ているのは、内なのか外なのか。奥まった場所にある草間彌生(29年生まれ)の水玉模様のベッドと、ティルマンスによる10点は新収蔵品だという。

 「窓」をテーマにした展覧会など、これまでも部屋やその周辺に着目した企画はあったが、本展は内省的な雰囲気に満ちていた。災厄を巡って世相が次のフェーズに移行しつつあるなか、この間経験したものを色濃く刻む展示だった。神奈川・箱根のポーラ美術館で7月2日まで。

2023年4月17日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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