木漆工芸家、黒田辰秋(1904~82年)の20代前半の創作に焦点を当てた「没後40年黒田辰秋展―山本爲三郎(ためさぶろう)コレクションより」が、アサヒビール大山崎山荘美術館(京都府大山崎町)で開催中だ。後に木工芸初の人間国宝となる黒田が、黎明(れいめい)期の民芸運動に出合い、若い情熱と冒険心をもって制作したみずみずしい作品が並ぶ。5月7日まで。
京都・祇園の塗師屋(ぬしや)に生まれた黒田は、当時は当たり前だった分業制に疑問を持ち、素地作りから塗り、加飾までの一貫制作を独学で始めた。河井寛次郎に感銘を受け、民芸運動に参加。柳宗悦や河井らが26年に「日本民芸美術館設立趣意書」を発表した際は、黒田が版木に刻んだ文字が表紙を飾った。
本展は、民芸運動が産声を上げたこの趣意書から始まる。27年には「上加茂民芸協団」が結成され、志を同じくする若者らが共同生活を開始。団員には作品販売のノルマがあり、黒田が手がけた2点の「欅拭漆(けやきふきうるし)戸棚」(28年ごろ)の背景に、当時のカタログのコピーが展示されている。
民芸運動は28年、東京・上野で開催された博覧会へのパビリオン出展という機会を得る。中流家庭の小住宅をコンセプトにした「民芸館」で、黒田は家具木工を担当。本展のハイライトは、この時黒田が制作したテーブルセットや郵便箱、灯火器などだ。テーブルセットの卓は3分割して真ん中を棚として使うことができ、椅子の脚は前後のデザインが異なるなど、細かな工夫が光る。「拭漆透彫梅文六角卓」は6面すべてに伝統的な梅文が配される一方、アラブ世界の祈とう台の影響もうかがわせる。
「民芸館」は、運動を支えたアサヒビール初代社長・山本爲三郎がまるごと買い取り、大阪の自邸敷地内に移築。今回展示されているのは、山本邸で長く実際に使われた作品だ。「日常生活の中で使われているものに美しさがあるという民芸運動を体現している」と鬼塚潤一郎館長は話す。同館(075・957・3123)。
2023年4月10日 毎日新聞・東京夕刊 掲載