「リフレーミング」2021(新作) ⒸChikako Yamashiro Courtesy of Yumiko Chiba Associates

【ART!】アイスクリームとフライドチキン

文:中村史子(なかむら・ふみこ)(愛知県美術館学芸員)

現代美術

 今回より美術に関する小文を隔月で担当する。それにあたり、食に注目しながら表現について書いていきたい。美の良し悪(あ)しの判断は時に味覚に例えられてきた。ならば食文化を通じて美術を語るのもさほど不自然ではないだろう。また、美術を暮らしの実感に引きつけて考えられそうだ。

 さて、本稿では映像作家、山城知佳子(1976年生まれ)の個展「リフレーミング」を取り上げる。山城は、生まれ育った沖縄の事物に取材しつつ、自然や歴史、政治経済へと視野を俯瞰(ふかん)的かつ詩的に広げる点に特徴がある。本展は彼女の初期作品から最新作まで紹介する。

 会場入り口には、強い日差しのもとでアイスクリームを頰張る山城本人の映像「I Like Okinawa Sweet」が展示されている。照りつける太陽、若い女性、アイスという組み合わせは、明るい南国のイメージそのものだ。ただ、彼女の背後に見えるのが沖縄の米軍基地であることを踏まえると、彼女が一心不乱に舐(な)めているアイスは、沖縄の人々に示される甘い巧言とも解釈できる。

 こうして本展はアイスから始まり新作の映像作品「リフレーミング」へと続く。舞台となるのは沖縄北部の村。地元の男たちは採掘場で働き、採掘された土砂は海の埋め立てに使われている。やがて、村で不可思議な現象が次々生じる。採掘場の事故で動けなくなったはずの作業員「発端」が踊り始め、別の作業員「泡」は伝説上の舟「天舟(てぃんぶに)」を求めて彷徨(さまよ)う。

 埋め立て工事の描写は、沖縄の基地問題を想起させる。しかし本作は、基地に対する批判のみには回収されない。人と自然との豊かな交感が、抜き差しならぬ事情で分断される様子も胸をつく。珊瑚(さんご)も人も根源は同じだと語られる一方、男たちは生活のために山を切り崩し海の埋め立てに加担せざるをえない。その際に発せられる自然の慄(おのの)きに「発端」は呼応して踊り、「泡」は「天舟」に救済を求めるのだろう。

 終盤、「泡」はケンタッキーフライドチキンの骨を白飯に刺し、それこそ「天舟」の姿だと悟る。このシーンで「天舟」の似姿とされるのが、沖縄の伝統的な食べ物でなく、アメリカ発のファストフードである点が印象的だ。また、だからこそ山城の作品は極めて多面的なのである。

 つまり、山城作品において食べ物は、沖縄がいや応なく抱えてきた両義性を具体的に描き出すモチーフなのだ。沖縄、日本、アメリカといった複数の政治や文化の間で揺れ動いてきた人々の生活が、食べ物には織り込まれている。そして、彼らはその理不尽を、アイスとして、肉として食らう。それを血肉とするため、この地に生きるためだ。東京・恵比寿の東京都写真美術館で10日まで。

2021年10月10日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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