スポットライトに照らされる作品。手前は名和晃平の「PixCell−Deer#51」=Ⓒ角川武蔵野ミュージアム
スポットライトに照らされる作品。手前は名和晃平の「PixCell−Deer #51」=Ⓒ角川武蔵野ミュージアム

【ART!】「裏話」で輝き増す現代アート問い直す展示の定石

文:平林由梨(毎日新聞記者)

コレクション

現代美術

 日本を代表する現代アートコレクター、田口弘さん(1937年生まれ)が収集した約650点から、アンディ・ウォーホル、キース・ヘリング、奈良美智、名和晃平、森村泰昌ら34作家の52点を紹介する「タグコレ 現代アートはわからんね」が角川武蔵野ミュージアム(埼玉県所沢市)で開かれている。5月7日まで。

作品とほぼ同じ大きさを割いて記されている解説=Ⓒ角川武蔵野ミュージアム
作品とほぼ同じ大きさを割いて記されている解説=Ⓒ角川武蔵野ミュージアム

 作品のラインアップもさることながら、これまでにない展示の試みに注目したい。現代アートの見せ方や受け取り方をめぐって鋭い問いを投げかけている。

 現代アートを展示する場合、白い箱のような空間(ホワイトキューブ)が適しているとされる。また、文字情報も極力、排除されてきた。同ミュージアムアート部門ディレクターで本展を企画した千葉大の神野真吾准教授によると「その背景には、アートの本質は色と形であり、言葉などの知識ではなく、感性によって受け取るものだという考え方がある」。

 会場はホワイトキューブとは正反対で真っ暗。作品は、スポットライトに照らされている。一部は天井からつって展示し、作品の間を縫うように鑑賞する。そこに、異例のボリュームの文字情報が同居する。作家の生い立ち、美術史上の位置づけといった解説にとどまらず、オークションでの落札額やギャラリーでのやり取り、田口さん、娘の美和さんが作品と出合って感じたことなど「裏話」も面白い。

 神野さんは「分かる人に分かってもらえばいい、という人たちが取りこぼしているものを大事にしないと現代アートは一部の人のアクセサリーになってしまうという危機感があった。19世紀末以降の作品は、目で見て感じるだけで理解できるものは少数派だからです」。確かに、文字から得る情報を元に作品が輝き始め、身近に感じられることはある。

 「現代アートはわからんね」と田口さんはつぶやいた。そこから深く引き込まれていった。その驚きや発見が、漆黒の空間で追体験できるだろう。

2023年4月3日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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