
東京芸術大(東京・上野)は、これまで「優秀」と見なした学生の卒業制作を買い上げてきた。こうした「買い上げ作品」を通し、同大学が担ってきた美術教育の歩みを振り返る展覧会が同大大学美術館で開かれている。
同大は1953年から毎年、各科の卒業・修了制作から優秀な作品を買い上げ、収蔵してきた。前身の東京美術学校でも買い上げは不定期に行われていた。同大が所蔵する学生制作作品は約1万件。その中から約100件を選び紹介するのが本展だ。

2部構成のうち第1部では、今では巨匠とされる画家らの学生時代の作品を見せた。同学校1期生、横山大観は卒業制作「村童観猿翁」(1893年)で初の大作に挑み、和田英作の「渡頭の夕暮」(97年)はパリ万博に出品された。在学中に頭角を現す画家がいる一方、青木繁や藤田嗣治らのように買い上げられずとも卒業後に才能を開花させた画家もいた。展示室の一角には、2人を含む計14人の自画像が並ぶ。卒業時の焦燥と自信が浮かび、西洋文化の流入によって変革が進む時代のにおいも伝える。
第2部では、主に53年以降の買い上げ作品の中から12の学科や専攻などの教授らがそれぞれ1~6作品ずつ選び、並べた。絵画科日本画専攻は、いずれも紙に岩絵の具で描いた5点を整然と並べた。同科油画専攻は4点のうち2点が油彩画とは異なるリトグラフや和紙を用いた作品だった。油画の他、版画、壁画、油画技法・材料という4領域から研究指導体制を編成するゆえんだろう。グローバルアートプラクティスなど、新たに創設された専攻で追究するような、ジャンルを横断した表現も存在感を放っていた。本展を企画した同館の古田亮教授は「一連の買い上げ作品と美術動向の関連性は今後の研究課題だが、どれも20代が手がけた作品であり、ある純粋性は共通している」と語る。
約70年分の買い上げ作品から選ばれた各科の「推し」作品の数々。見る人の「芸大って何だろう」という問いに形を与えてくれるだろう。5月7日まで。
2023年4月24日 毎日新聞・東京夕刊 掲載