「News From Nowhere(Labour Day)」(2019年、個人蔵)撮影:宮島径 ©AOYAMA Satoru, Courtesy of Mizuma Art Gallery

 工業用ミシンを使った刺繡(ししゅう)で創作する現代美術家、青山悟さんの美術館初の個展「青山悟 刺繍少年フォーエバー」が東京都の目黒区美術館で開催されている。

 タイトルの「刺繍少年」は約20年前、英ロンドン大ゴールドスミスカレッジの恩師がキュレーションし、自身も参加した展覧会「Boys Who Sew」に由来するという。そこに示されるのは、ジェンダーやエイジズムに対する青山さんの問いかけだ。さらに、産業革命において大量生産を可能にし、手仕事を奪った機械であるミシンを、50代の男性である青山さんが使うことで、AIにより仕事を奪われようとしている現代の労働問題を示唆すると同時に、刺繡が女性の仕事とされてきたジェンダー問題や、大量生産されるものと芸術作品の違いは何かという問いをも突きつける。

目黒区立五本木小の児童らと共同制作した作品の前に立つ青山悟さん

 「News From Nowhere(Labour Day)」は、19世紀に米ニューヨークで行われた「労働者の日」のパレードを描いた絵をシルクスクリーンにプリントし、その上にデモの旗などを刺繡している。中央の旗に記された「GIVE MORE APPRAISAL FOR ARTISTS’ LABOUR!(芸術家にもっと評価を)」のスローガンは、青山さんの心の叫びと受け止めたい。

 「N氏の吸い殻」は、アトリエの隣にある町工場の破産に青山さんが気づいた日、工場のドアの前に落ちていたたばこの吸い殻を拾って刺繡にした作品だ。消えゆくものに向けたまなざしは、本展のサブタイトル「永遠なんてあるのでしょうか」という問いにもつながっていく。

 本展で初めに迎えてくれるのは、青山さんが目黒区立五本木小に出前授業に赴き、児童らと共同制作した作品である。また、入り口脇のスペースにはミシンが置かれ、来館者が制作風景を見たり、青山さんと話をしたりできるようにもなっている。同区出身で今も在住する青山さんの「地元の公立美術館で開催する展覧会を、住んでいる人と関係ないものにしたくなかった」という思いが表れている。6月9日まで。

2024年5月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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