洗練されたデザインにポップな色遣いのテキスタイルや雑貨、機能的な家具……。多くの日本人が持つ北欧のイメージを一新する展覧会が開かれている。SOMPO美術館(東京都新宿区)の「北欧の神秘」展だ。「北欧絵画の黄金期」といわれる19世紀から20世紀初めにかけ、北欧3国で活躍した国民的画家47人の作品約70点を紹介している。
この時代、北欧の画家たちは中央ヨーロッパの影響を受けながら、自国の自然や歴史、文化に関心を寄せていった。独特の自然とともに重要な主題となったのが、自然に宿る目に見えない不思議な力であり、その象徴である怪物や妖精が登場する北欧神話や民間伝承だ。
ノルウェーの画家テオドール・キッテルセンは、北欧の神話や民話によく出てくる怪物トロルを絵に描き、初めてそのビジュアルイメージを人々に与えたとされる。
「トロルのシラミ取りをする姫」はキッテルセン自身が創作した物語「ソリア・モリア城―アスケラッドの冒険」の一場面だ。連作12点のうち3点が展示されている。主人公がトロルにとらわれた姫を助けるため城に足を踏み入れた際に見た光景を描いた。椅子に座り居眠りするトロルと、シラミを取るためその毛をかき分けている姫。赤々と燃える暖炉の火が逆光となり、彼女らの表情はうかがえない。すべてが判然とせず、神秘的な雰囲気を醸し出す。
同じく「アスケラッドと黄金の鳥」でも、鳥ははっきりとは示されない。菩提樹(ぼだいじゅ)の葉の一部が変化して鳥になった、あるいは森と鳥が半ば同化して輝いているかのように描かれている。自然には人の手の及ばない力や魔法があり、それが時には怪物や妖精に姿を変える――北欧の伝承を象徴するような作品だ。
フィヨルドや白夜など北欧ならではの風景を描いたものも多く、暗い色調の絵が目立つが、J.A.G.アッケの「金属の街の夏至祭」のように、いまだテーマが何なのか分かっていないという作品もあり面白い。北欧の新たな一面を発見できる展示となっている。6月9日まで。
2024年4月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載