「Every Day I Pray for Love」展の展示風景

 描く行為と身体が切り離せないことを、ますます確信させられる。95歳を迎えた草間彌生さんの新作・近作個展「Every Day I Pray for Love」を見るとそう思わずにはいられない。しかも、画面には新たな展開が生まれているのだ。

「毎日愛について祈っている」(2023年)シリーズより(部分)

 東京・六本木のオオタファインアーツ(03・6447・1123)で3年ぶりに開催されている個展に並ぶのは、2021年から今年にかけて描かれた約50点。展覧会タイトルと同名のシリーズを見れば、まず言葉が書きこまれていることに気づく。円のなかに「クサマヤヨイのアイのメッセージを世界のみなさんへささげる」「I LIKE MYSELF」と日本語や英語で書かれていて、これらは過去の詩作などからの引用だという。絵と文字が同時に画面に現れる手法は、東洋の伝統をよく知る私たちからすればとてもなじみがいいし、草間さんが文学の人でもあることを改めて思い起こさせる。

 人の横顔が多数描き込まれているのも、目を引く。過去のシリーズでも登場した造形だが、ここでは増殖するように次の顔へと描線が延びていく。文字も横顔も、水玉や網目といった象徴的なモチーフと有機的に一体化しており、筆が動くままに描き進める姿が浮かぶ。

 オオタファインアーツのオーナー、大田秀則さんによると、草間さんはベッドのそばにテーブルを置き、一日中、土日もなく描いているという。前回の展示より画面は小ぶりになっているものの、「キャンバスを持っていくとそれだけ描く。身体に悪いので(持っていく量を)セーブしているほど」だという。

 病室からほとんど外に出ないストレスフルな生活のなか、描き続ける姿は鬼気迫るものがあるといい、「描くという行為が自分の存在を証明する唯一の方法なのではないか」と大田さんは話す。

 同展には、紙にアクリル絵の具で描かれたドローイングが2点だけ展示されている。スケッチブックをちぎったのだろうか。白い壁にぽつんと並ぶその2点が、草間さんの日々を想像させる。20日まで。

2024年4月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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