古くは旅の守り神だった猫をモチーフにした「SHIP'S CAT」に、防護服を着て手に希望の太陽を持つ「サン・チャイルド」、子どもたちの守護神「ジャイアント・トらやん」――。巨大彫刻で知られる現代美術作家・ヤノベケンジさんの作品には、遊び心と社会的なメッセージが共存する。そんなヤノベワールドのキャラクターが集結したステンドグラスが、大阪国際(伊丹)空港直結のモノレール駅にお目見えした=写真。
「生命の旅」と題した縦約2㍍、横約12㍍の作品が設置されたのは、大阪モノレール・大阪空港駅。全国にパブリックアートを設置する日本交通文化協会の企画で、ヤノベさんが原画・監修を務め、「クレアーレ熱海ゆがわら工房」の職人が全52色、2032ピースのステンドグラスを制作した。
1965年生まれのヤノベさんは70年大阪万博の翌年、会場跡地に近い茨木市に移り住んだ。「パビリオンが鉄球で壊されたり、巨大なロボットが放置されていたり」した万博跡地は、ヤノベ少年の目に「未来の廃虚」と映ったが、「もの悲しいというより、何もなくなったからこそ自分で何か作っていいという想像力をくれる」場所だったという。
今回発表された新キャラクター「LUCA号」は、中でも想像力をかき立てられたという「太陽の塔」をオマージュした。顔が猫型のLUCA号は、宇宙人ならぬ「宇宙猫」を乗せた宇宙船という設定。生命の起源は隕石(いんせき)に付着したアミノ酸だったという学説に着想を得て、宇宙猫がLUCA号に乗って地球に飛来し、生命の進化を見届けた後に絶滅。燃料が切れ、宇宙に戻れなくなったLUCA号からは猫の耳が落ち、太陽の塔になった――という物語を描いた。ヤノベさんは「僕の妄想ストーリー」と笑いつつ、「僕も太陽の塔を見た時に、なんでこんなわけのわからないものが立ってるんだと思ったけど、そういう世の中って面白い。今の子どもたちにも伝えたいし、それが僕の役割なんじゃないかと思っている」と語った。
制作にあたり、岡本太郎が原爆を描いた「明日の神話」も意識したという。生命を巡る壮大な物語絵巻に登場するのは、ヤノベさんが2000年代以降に生み出した八つのキャラクター。その一つ一つに、核や環境破壊といった課題に向き合う我々へのメッセージが秘められている。
2024年4月1日 毎日新聞・東京夕刊 掲載