資料展示されている「女四人の会」の写真(大阪中之島美術館蔵)。左から岡本更園、吉岡(木谷)千種、島成園、松本華羊
資料展示されている「女四人の会」の写真(大阪中之島美術館蔵)。左から岡本更園、吉岡(木谷)千種、島成園、松本華羊

【ART】大阪画壇、女性らの大輪 59作家紹介、特集展 大阪中之島美術館

文:山田夢留(毎日新聞記者)、清水有香(毎日新聞記者)

日本美術

 4枚の女性画の前に立つのは島成園や木谷(吉岡)千種ら、近代大阪を代表する女性画家たち。1916(大正5)年に結成された「女四人の会」は話題を呼び、もてはやされる一方で、「生意気だ」という批判も浴びたという。芸術家の大半が男性だった時代に、確かな足跡を残した女性画家たちを特集した「決定版!女性画家たちの大阪」が、大阪中之島美術館(大阪市北区)で開かれている。25日まで。

 明治から昭和に活動した59作家の186点を展示。日本画の画壇は東京と京都、そして男性が独占した時代に、大阪で活躍した女性画家の存在は、当時から注目の的だったという。大正期には官展(文展、帝展)の女性入選率が、東京・京都を抑え三都で最多に。調査した小川知子研究副主幹によると、入選が特定の実力者に集中せず、新しい画家が次々に入選するなど裾野が広いことも特徴という。

島成園「無題」大正7(1918)年 大阪市立美術館蔵
島成園「無題」大正7(1918)年 大阪市立美術館蔵

 その先陣を切ったのが、12年の文展に20歳で入選した島成園(1892~1970年)だった。成園はいわゆる「美人画」とは違い、生身の女性を描いた。可愛らしい少女の姿に、社会に存在する格差を映した「祭りのよそおい」(13年)。デカダンな雰囲気に太夫のすごみがにじむ「伽羅(きゃら)の薫(かおり)」(20年)。自画像「無題」(18年)に描かれた、実際にはなかった右頰のあざは、道を切り開く者が負う傷を想像させる。

 成園の活躍に鼓舞され、大阪からは岡本更園(1895年~不詳)、木谷千種(1895~1947年)、松本華羊(かよう)(1893~1961年)が続けて文展に入選した。4人は「女四人の会」として、井原西鶴「好色五人女」を題材にした展覧会を開催。冒頭の写真に写る作品のうち、本展では所在のわかった成園「西鶴のおまん」と更園「西鶴のお夏」が展示されている。

 成園や千種は画塾を開き、後進の育成にも尽力した。最終章では2人の画塾や、多くの女性が所属した北野恒富門下の画家らを特集。生没年はもとより、名前の読みすらわからない作家たちの秀作が並ぶ。結婚で姓が変わるなど女性画家の研究に特有の障害もあり、まだまだ明らかになっていないことが多いという。

生田花朝「だいがく」昭和時代(大阪府立中之島図書館蔵)。雨乞い神事が起源という大阪の夏祭りを描いた
生田花朝「だいがく」昭和時代(大阪府立中之島図書館蔵)。雨乞い神事が起源という大阪の夏祭りを描いた

 大阪の風俗を描き続けた生田花朝らの作品や、大阪で盛んだった伝統的な文人画(南画)など、章ごとにがらりと変わる雰囲気が、裾野の広さを物語る。「わざわざ女性として切り取って提示するのは今の世の中に反するという意見もあるかもしれないが、大阪に女性画家がたくさんいて、作品があるという状況を明らかにし、彼女たちの作品を近代美術の中に位置づけたい」と小川さん。「今後は『女性画家』ではなく、人物画、文人画といったテーマの中で取り上げられることを望む」と話す。

木谷千種「浄瑠璃船」(1926年、大阪中之島美術館蔵)。舟遊びを描いた帝展入選作。千種は大阪の伝統行事や人形浄瑠璃などの画題を好んだ
木谷千種「浄瑠璃船」(1926年、大阪中之島美術館蔵)。舟遊びを描いた帝展入選作。千種は大阪の伝統行事や人形浄瑠璃などの画題を好んだ

◇画塾で錬磨、仲間が力に 研究の今、大阪大施設で講演とトーク

 本展開催にあわせ、小川知子さんの講演とトークイベント「大阪の女性日本画家の研究はいま!」が大阪大中之島センター(大阪市北区)で開かれた。フェミニズム&アート研究プロジェクト主催。

 小川さんは講演で、成園や千種らの初期作に対して<カナリ正直に、素直すぎた>(「二つの問題」1923年)と論じた北野恒富の文章を取り上げた。「素直すぎるというのは、女性が女性を描く視点のことではないか」と考察。「男性画家にとって女性は描くべき対象であり、構図や人物のポーズが問題になった」のに対し、女性画家は女性の老いを表現するなど「自分が描きたいものを描くという別の視点があった」と述べた。

 成園と千種の画塾では、多くの女性画家が学んだ。「女性だけの環境はある意味、自由で伸びやかだったと考えられる」と小川さん。大正初期は女性蔑視の論考を寄せる人も多かったといい、「そうした社会で活動を続けるのに、仲間がいることは非常に大きな原動力になったと思う」と語った。

 講演後、主催のプロジェクトメンバーで美術史学者の北原恵・大阪大名誉教授が進行役を務め、東京・実践女子大香雪記念資料館の田所泰学芸員がトークに参加。田所さんは栗原玉葉(ぎょくよう)らが20年に東京で結成した女性画家団体「月耀(げつよう)会」の活動を紹介した。また、大阪の女性画家を考える上で、幕末から明治にかけて活躍した橋本青江ら「女性文人画家の研究も進めていくべきではないか」と指摘。その際、展覧会で活躍しなかった人たちもすくい上げる必要があると強調した。

 小川さんも今展で取り上げられなかった作品が多くあるとし、「そういう意味では地域単位のグループで切り取ることに限界も感じた」と説明。この先、「木谷千種とその門下生」といったさまざまな切り口でより丁寧にみていけたらと展望を述べた。

2024年2月19日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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