昨年3月に死去した音楽家の坂本龍一さんは、節目節目で東京・初台のNTTインターコミュニケーション・センター(ICC)の企画で展示、制作をしてきた。現代美術における創作に改めて光を当てたいと、アーティスト・真鍋大度さんを共同キュレーターに招き、「坂本龍一トリビュート展 音楽/アート/メディア」を開催している。

毛利悠子さん「そよぎ またはエコー」(本展のための再構成、2017年/23年)の展示風景
毛利悠子さん「そよぎ またはエコー」(本展のための再構成、2017年/23年)の展示風景

 真鍋さんのパートでは、関わりのあった国内外のアーティストが、残された演奏データなどを活用して制作した4作品を展示。ICC学芸課長の畠中実さんのパートは、アーティスト集団「ダムタイプ」に参加して制作した「Playback 2022」や、曲を提供した毛利悠子さんの「そよぎ またはエコー」(再構成)など、生前に他者との共働で生まれた作品を展示する。また、李禹煥(リウファン)さんが坂本さんの回復を願って贈ったドローイングも初公開されている。

 近年は、音楽をアートの場で発表することが目立っていた。そこで発揮したのは「実験精神」だったと畠中さんは言う。過去のライブパフォーマンスでは、タイムラグが発生する初期のインターネット技術をあえて用いたものがあり、真鍋さんは「完全にできるようになってからは興味がないようだった。技術の不完全さや、それが持つ可能性に興味があってチャレンジしたんじゃないかな」と話す。

 今回展示されている、真鍋さんらによる「Generative MV」では、その坂本さんの姿勢に敬意を込め、リアルタイムでエフェクトを加えるAI(人工知能)の技術を用いて制作した。

 展示室を歩けば、さまざまな音が混じり合って聞こえてきて、多様な人々と関わりつつ世界が持つ音に耳を澄ませていたと分かる。坂本さんが持っていた創作への精神をいかに受け継ぐかも、本展のテーマの一つだという。3月10日まで。

2024年1月29日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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