書のファンでにぎわった第74回毎日書道展=国立新美術館で7月、宮本明登撮影
書のファンでにぎわった第74回毎日書道展=国立新美術館で7月、宮本明登撮影

【この1年】書 会派超え17人の華、結実

文:桐山正寿(毎日新聞記者)

 今年のお正月の銀座は、書の華が咲き誇った。墨輪会の有志17人が一斉に個展を開いたからだ。「現代の書 新春展」と合わせて新世代の書人たちが自らの考えを問い掛けたのだった。会派を超えて安藤尤京さん、市川智美さん、岩壁聖濤さん、金子大蔵さん、川本大幽さん、櫻本太志さん、棧敷東煌さん、佐藤義之さん、千代倉桜崖さん、田鶴崖さん、中澤京苑さん、根本爽穂さん、野口泰雲さん、日向伯周さん、水川芳竹さん、宮崎淳史さん、山田光霧さんが集った催しは、縦割りの組織に閉じこもりがちな書展の現状を考え合わせても、大きな意義があったように思われる。

 中野北溟さんの百寿記念展(札幌)は、日本全国から創玄書道会の書人が集い、敬愛の念を示した得難い催しだった。中野さんの作「ありがたくって うれしくって 涙あふれ」は書人生への喜びが放射していた。

 ベテラン書人の個展も充実していた。高橋静豪米壽の書 賦と辭を書く(1月)▽石飛博光―律動する書(2~3月)▽傘寿記念 辻元大雲回顧書展(3~4月)▽中嶋玉華 古今和歌集恋歌一(3~4月)▽安藤豐邨展 古代文字渉歴(4月)▽柴山抱海展(4~5月)▽長野松喬書展(5~6月)▽小林琴水書展(7月)▽三宅相舟の今(7月)▽板垣洞仙傘寿書展(8月)▽石井抱旦獨展(10月)などだ。

 書は命 大井錦亭展(5月)▽生誕100年 小山やす子展(10~12月)は、「現代の書」をけん引した書人の足跡を問い直す貴重な遺墨展だった。
 昨年11月から3回に分けて開かれた柳澤朱篁さんが収集、書壇院に寄贈された書に関する催しは、学書のあり方を問い掛けた。
 「王羲之と蘭亭序」(1~4月)は東京国立博物館と台東区立書道博物館の連携企画20周年を記念した催しで、書の歴史全体を見渡した企画だった。書を巡る出版事業が衰退する中、書のファンにとってこの展示は、歴史の中に踏み入り、自らの未来を考えるためのまたとない機会だったに違いない。さらなる発展を心から祈りたい。

 比田井天来展(8~11月、小原道城書道美術館)▽幕末明治の書(8~10月、成田山書道美術館)▽大澤雅休 棟方志功 表立雲展(10月、永井画廊)▽北宋書画精華(11~12月、根津美術館)は視点の定まった企画展だった。

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 自らがよって立つ土地に根ざし、同時に広く海外でも書の魅力を発信した柿下木冠さんをはじめとして、土屋陽山さん、佐々木嵓邦さん、浜谷芳仙さん、紙屋鶴峯さん、中島龍溪さん、河村和子さん、田中梨梢さん、水野春翠さん、佐々木龍雲さん、島村操さん、平田鳥閑さん、福島敬子さんらが死去した。

 「美術評論家田宮文平先生を偲ぶ会」が11月、長野・佐久市で開かれた。佐久臨書展の開催に尽力した経歴と書の批評のあり方について参加者が語り合った。

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 皇居三の丸尚蔵館が開館30周年を迎え、「皇室のみやび―受け継ぐ美―」が4期に分けて開催中。管理・運営の独立行政法人国立文化財機構への移管に伴い、ますますの研究活動の充実が期待される。

 日本詩文書作家協会が創立50周年を迎え、特別企画「協会の礎を築いてきた先人の書展」が開かれた。今の時代の言葉を書くという考えは「現代の書」の最大のテーマだろう。協会の歴史は文学者との交流を重ねた歩みでもあった。言葉を探す営み、それは自らの感動と向き合う行為と深く結びついているだけでなく、他者とのかけがえのない出合いの機会だったはずに違いない。さまざまな表現分野の人々と集い、書表現を開いたものにしてゆく――ポストコロナに向かっての大きな課題だと思われる。

2023年12月14日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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