「Au Passage4人の個展―競馬場のパサージュにて」より森村泰昌さんの作品の展示風景=福永一夫さん撮影

【ART】
競馬場にアートの小径 山本容子さんら4人展 京都

文:山田夢留(毎日新聞記者)

日本画

版画

現代美術

陶芸

 個性豊かな店が軒を連ね、ぶらぶらと歩くだけでも楽しいパリのパサージュ。そんな趣ある「小径(こみち)」をイメージした展覧会が、今春大改修を終え再開場した京都競馬場(京都市伏見区)で開かれている。出走のファンファーレや喜び、悲しみ入り交じった歓声が聞こえてくる〝勝負〟の場に、日本画、現代美術、陶芸、銅版画という4ジャンルの作品が並ぶ。

 「Au Passage(オパサージュ)4人の個展―競馬場のパサージュにて」は京都競馬場の再開場と、今秋の京都市立芸術大の移転を記念し、同大出身の銅版画家、山本容子さんが中心となって企画した。山本さん、森村泰昌さん(現代美術)、西野陽一さん(日本画)、八木明さん(陶芸)が、3階通路にあるウインドーを一つずつ受け持ち、馬をテーマに作品を制作した。

山本容子さんの作品の展示=山田夢留撮影

 山本さんは「鏡の国のアリス」がテーマのインスタレーションを手がけた。近代競馬発祥の地、英国の作品であり、競馬同様ゲーム性があるチェスが下敷きとなった作品であることから選んだという。各場面を描いた銅版画をチェス盤のように並べた奥には、「赤の王」が眠る鏡。精密な銅版画による不思議な物語をじっくり見ようとのぞき込むと、鏡に映った自分自身もアリスの世界に取り込まれたような錯覚に陥る。

 森村さんはナポレオンの有名な肖像画をセルフポートレート作品にした。描かれた〝英雄〟ナポレオンは脚が長すぎたり、大仰なマントをまとっていたり、「すごく派手に、アニメみたいな誇張表現をしている」。長い付け脚やマントなど小道具を制作し、京都競馬場乗馬センターの白馬を、筋肉の美しさを際立たせるため早朝の光のもと撮影した。作品タイトルは「交響曲絵画『Eroica No.6』」。ベートーベンが、革命の旗手から皇帝になったナポレオンに失望したという逸話にちなみ、権力者の肖像画へのアイロニーを込めた。

 「馬券を買ってゲームを見る最短距離の直線コースだけじゃなく、寄り道をして刺激を受けながら過ごす方が日常は濃い気がする」と山本さん。25、26日の午前9時~午後5時。

2023年11月20日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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