廃材の鉄筋を使った「Work23−S」。手前は別の作品で出たアルミ合金のゴミを再利用した「Work23−A」

 もじゃもじゃとこんがらがった二つの塊は、遠目にも強烈なエネルギーを放っていた。ゴミをモチーフにした作品で知られる美術家、三島喜美代さんの最新作。その素材は、建物の「ゴミ」である鉄筋だ。卒寿を迎え、なおパワフルに、そして自由に創造し続ける三島さんの個展「三島喜美代-遊ぶ見つめる創りだす」が、岐阜県現代陶芸美術館(多治見市)で開かれている。

 美術館では初の個展となる本展。初期の平面作品から本展に向け制作された最新作まで約100点の作品で、70年に及ぶ創作の軌跡をたどる。最初期の油彩画は初公開。情報化社会に問題意識を向けた1960年代のコラージュ作品から、陶への転写を試みた頃の作品を経て、代名詞となった「ゴミ」の作品が登場する。一口にゴミの作品といっても、表現は多彩だ。新聞や雑誌、空き缶などを陶で模したもの、鉄くずなどゴミそのものを組み合わせてオブジェにしたもの、ゴミを高温焼成した溶融スラグを使い、ゴミから「ゴミ」を作ったもの。

新聞一つ一つが陶のパーツでできている「Work21−A」

 横倒しの巨大タンクからくしゃくしゃの新聞がこぼれ落ちている「Work 21―A」は、2021年に森美術館(東京)で開かれた、世界のベテラン女性アーティスト16人によるグループ展で発表された。新聞は一つ一つが陶でできたパーツで、その数約120。森美術館での展示の際に作成された指示書に基づき忠実に再現し、3日がかりで展示した。同じくしゃくしゃの新聞でも、本物の古新聞がビニール袋に詰められた作品もある。平成から令和へと元号が変わった日の新聞の束には、陶製の「取扱注意」のタグ。どの作品にも、現代社会への批評性と、思わずニヤリとしてしまうユーモアが同居している。

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 展示スペースを生かした大型の作品も目を引く。「Newspaper 99―NG」(98~99年)は、インターネット時代の新聞の危機を表現したという縦約7・5㍍、横5・2㍍の作品。和紙にポリスチレンで文字を貼り、使い捨てカイロの鉄粉をかけて制作された巨大な新聞紙面は、上部に虫食いが侵食したかのような跡がある。フェイクニュースが世界を覆う今、四半世紀前の作品は、情報そのものの危機という新たなメッセージを帯びているように見える。

9メートルの天井高があるスペースを利用し展示されている「Newspaper99−NG」

 屋外の池には、大きな新聞やチラシが浮かんだり沈んだりしている。繊維強化プラスチック(FRP)と陶のものが混在する「Work 03」(02年)がユニークなのは、中に割れた作品があること。「割れてたら割れてたで面白い」という三島さんの意向を受け、割れたまま同館に収蔵され、展示された。

池に展示されている「Work03」。奥に割れた新聞が見える

 近年再評価が進む三島さんの作品。パリのポンピドーセンターをはじめ、海外の美術館にも収蔵され、22年に毎日芸術賞、23年には「円空賞」を受賞した。花井素子学芸員は「三島さんの作品は、みる人を圧倒する。大きさの圧、量的な圧、そして作家のエネルギーとしての圧が、作品を通じて伝わってくるのが面白い」と話す。

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 「なんか見てパッと『面白いな』『やってみたいな』と思ったらやってみる。それだけ。なんでこんなアホなことしてんのかなと思う人もあるし、面白いなと思う人もあるし、それでいいんですよ」。展示室では、本展に向けて収録されたインタビューが上映されている。自身の創作について語る言葉は、作品同様、あっけらかんと、ユーモラスだ。

 冒頭の作品「Work 23―S」は、建物の解体現場で「面白い」ともらってきた、廃材の鉄筋が作品になった。岐阜県土岐市のアトリエ屋外に20年以上置かれ、重みで下半分が地面に埋まっていたという鉄筋の塊は、彩色や英文の転写など細かい仕事を施され、生まれ変わった。

「Work23−S」(部分)。さびた鉄筋に彩色や英文の転写が施されている

 三島さんがゴミと向き合って半世紀。世界はいまだ大量生産・大量消費をやめられず、街の至る所でスクラップ・アンド・ビルドが繰り返されている。大きな「もじゃもじゃ」が放つエネルギーは、現代社会への痛烈な風刺だろうか。そんなことを考えていたら、三島さんの声が耳によみがえった。「皆さんみたいに理屈付けない。これが面白いな、これなんとかならないかな、と思ったら途端にやってますよ」。26日まで。

2023年11月13日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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