コシノジュンコさん=西村剛撮影

コシノジュンコさん 「対極」の洋服を作り始めた身近な体験

文:山田夢留(毎日新聞記者)

ファッション

 光と影、女と男、東洋と西洋……。世界的デザイナー、コシノジュンコさんが洋服を作るうえで核としてきたのは「対極」というコンセプトだ。その発想は身近な体験をきっかけに生まれたという。

 コシノさんの活動の全貌を紹介する過去最大規模の展覧会「コシノジュンコ 原点から現点」が23日、あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区)で始まる。故郷・大阪での開催を前に、洋服に込める思いや、活動の「原点」について語ってもらった。

「コシノジュンコ 原点から現点」のビジュアル

 ◇「自分が着たいものを作る」

 コシノさんのデザイナー人生は、若手デザイナーの登竜門である「装苑賞」受賞(1960年)で、華々しく幕を開けた。史上最年少、文化服装学院(東京)在学中の快挙だった。「これ、私、今も着たいわ」。そう声を弾ませるコバルトブルーのウールのコートは、今見ても新しい。「ひとごとでは作らない。自分が着たいものを作る。だから、今でもまず着てみますよ」。創作に臨む姿勢は、60年を経た今も変わらない。

装苑賞受賞作品 1960年

 着る人のいいところを引き出す。これも、コシノさんのデザインの変わらぬ魅力だ。一世を風靡(ふうび)したグループサウンズ「ザ・タイガース」の衣装は「メンズを作るわけでも、レディースを作るわけでもなく、この人たちのかっこよさ、美しさを引き出したい」とデザインした。

 「洋服ってただ寒いから着るものではなくて、その人の見えない良いところを生かすために着るもの。私が作った服を着たら、今まで出せなかった力が出せるようになったって言われるんです。私、まるでお医者さんみたいって思ったりもしますよ」

コシノジュンコさん=西村剛撮影

 ◇丸いおなかに感じた宇宙

 80年代初頭には「対極」というコンセプトを掲げた。「光と影、前と後ろ、男と女、東洋と西洋。この世界は全部、二つのバランスでできているでしょう。それを洋服で表現したいと思ったんです」。今も創作の核をなす、宇宙の真理に迫るコンセプトだ。

 思いついたのは、意外にも身近な経験からだった。「パリコレ2年目、これからって時に長男を妊娠したんです。大きなおなかを見ながら『三角でも四角でもいいのになんで丸なのかしら』って思ったの。『そんなこと思う人いないよ』って言われたけど(笑い)」。丸いおなかに宇宙を感じたコシノさんは、宇宙という完全な創造物を象徴する「円」と、人間がつくる合理的なものを象徴する「四角」を基調にした作品を発表。造形美をたたえたデザインは、コシノさんの代名詞となった。

 ◇コロナ禍は「ためる時」

 中国やキューバ、ベトナムなど、世界各地でファッションショーを手がけ、国内でも舞台衣装やスポーツのユニホームなどへと幅を広げた。

 新型コロナウイルス禍で、世界を飛び回る日々が一変した時も、切り替えは早かった。「今やらないと、いつやるの」。ずっとやりたかったのに忙しくてできなかった、絵に打ち込んだ。高校時代、画家を目指していたコシノさんにとっての原点だ。「改めて、自分の好きなこと、原点を見つめられました。今は外に出す時じゃなくて、ためる時だと思う。そして、海の外にばかり目を向けてきた日本人が、日本を知る時かなとも思っています」

デザイナーとしての原点について語るコシノジュンコさん=京都市上京区で2023年10月17日、西村剛撮影

 コシノさんが切り開いてきた世界を、豊富な衣装や写真、そしてショーの映像で紹介する本展。「ファッションショーって普通は見られないし、1回きりでしょう。それをたくさんの人に見てもらえるのがいいですね」。本展の会場・あべのハルカス美術館がある大阪・天王寺は、高校生だったコシノさんが大阪市立美術館に通った「原点」の場所でもある。「初めて見たものって、一生忘れない。特に若い人たちが、何か見つけてくれればうれしいです」

琳派コレクション〝羽織〟 2004年

PROFILE:

コシノジュンコ

大阪府岸和田市出身。1966年、東京・青山にブティックを開く。姉コシノヒロコさん、妹コシノミチコさんもデザイナーで、「コシノ三姉妹」として知られる。近著に『コシノジュンコ56の大丈夫』(世界文化社)。

INFORMATION

「コシノジュンコ 原点から現点」

会期:11月23日(木・祝)~2024年1月21日(日)。11月27日(月)、12月31日(日)、1月1日(月・祝)は休館。入館は火~金曜は午前10時~午後7時半、土~月曜と祝日は午前10時~午後5時半。
会場:あべのハルカス美術館(大阪市阿倍野区阿倍野筋1 あべのハルカス16階、電話06・4399・9050)
前売りペア券:一般2枚組み2800円。1人で2回使用も可。11月22日まで、ローソンチケット、セブンチケット、イープラスで販売。
前売り券:一般1500円▽大高生1100円▽中小生300円。11月22日まで、あべのハルカス美術館公式サイト、セブンチケット(セブンコード101―550)ほか主要プレイガイドで販売。当日券は各200円増し。
主催:あべのハルカス美術館、毎日新聞社、MBSテレビ
協賛:タカラベルモント、三菱商事、NKB、東武トップツアーズ

2023年11月10日 毎日新聞・大阪朝刊 掲載

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