建築や環境デザインなどを学ぶ学生が、世界遺産の寺社など「聖地」といわれる特別な場所に滞在し、小さな建築を作る「建築学生ワークショップ」(毎日新聞社など後援)が9月17日、京都の仁和寺で開催された。伊勢神宮や東大寺など各地で開催してきたワークショップだが、今回が初の古都・京都での開催。学生たちは歴史や地形など場の文脈を読み解き、多様な素材を用いた建築を制作した。
ワークショップは大阪が拠点の建築家、平沼孝啓さんらが中心となって2001年に始め、関西近郊の過疎地で開催。10年からは平沼さんが代表理事を務めるNPO法人アートアンドアーキテクトフェスタが主催し、比叡山延暦寺や明治神宮などを舞台に、全国から集まった学生が参加してきた。一線で活躍する建築家のほか、それぞれの地元で伝統工法に携わる技術者が計画の段階から指導に当たるのが特徴で、実学を通じた後進の育成を目的にしている。
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会場となった仁和寺は真言宗御室派の総本山。平安時代の創建以来、明治維新まで皇族が住職を務めた門跡寺院で、今年は空海生誕1250年にも当たる。全国から公募で選ばれた学生約60人は10班に分かれ、今年6月から現地のリサーチを開始。五重塔前や金堂前など境内の計画地を決め、7月には作品の構想を発表して、建築家や技術者らから講評を受けた。
各班の学生は講評を基に計画をブラッシュアップし、9月12日から現地で合宿。17日には1日限りの建築10体が完成し、境内の特設会場での公開プレゼンテーションの後、建築家の竹原義二さん、美術評論家の建畠晢さん、建築史家の五十嵐太郎さんら19人が審査にあたった。
最優秀賞に選ばれたのは、有名な「御室桜」の前に作られた作品で、タイトルは「わ」。桜が咲いていない時期にその美しさを伝えたいと、真っ白な綿と木を組み合わせた。木は仁和寺の裏山で朽ち木を集め、綿は京都の布団屋から提供を受けたという。「綿を意匠だけではなく構造体としても使いたい」と、四つ編みにしながら枝を巻き込むという工法を採用。建築家の藤本壮介さんは講評で、「綿の持っているオーガニックな柔らかさと中にのみ込んだ樹木から、自然が持つ生命感が立ち現れている。ぬいぐるみ的な建築で面白い」と評価した。
優秀賞は五重塔前に作られた「さとる」で、木の部材が揺れて音を奏でる作品。特別賞は、風でゆらゆらと動く半透明の風船を連ねた「こゆるり」が受賞した。24年は京都・醍醐寺で開かれる。
2023年10月4日 毎日新聞・東京夕刊 掲載