AI美芸研の中ザワヒデキさん(右)と草刈ミカさん
AI美芸研の中ザワヒデキさん(右)と草刈ミカさん

 アイデアやコンセプトを重視し、芸術の本質を追究する「コンセプチュアルアート」の分野で活動する美術家、中ザワヒデキさんと草刈ミカさんは、芸術の分野で生成AI(人工知能)の利用が広がる影響を「19世紀の写真の登場時と同程度」と見通し、「その先が見たい」と話す。二人が運営する「人工知能美学芸術研究会」(AI美芸研)のアトリエを訪ねた。

 AI美芸研は2016年、AIと芸術をめぐる考察を深めようと設立された。40回を超える研究会を主催し、専門家を交えたシンポジウムや展覧会、コンサートなどを企画してきた。

画像生成AIを用いた研究会のポスター=AI美芸研提供
画像生成AIを用いた研究会のポスター=AI美芸研提供

 東京・調布のアトリエに入ると、3本腕の女性の画像が目に飛び込んできた。研究会のポスターで、生成AI「ミッドジャーニー」を用いて制作したという。「これもそうですが、現在のAIは人間がプロンプト(指示)を与えて初めて画像を生成する他律的なものです」と草刈さんが解説してくれた。

 「現在のAIが担うのは、イラストのような『見る快楽』に奉仕する芸術です。エンターテインメントのような需要に応えるアートをAIに任せることで、人間はそうした需要から解放され、芸術の本質を問う活動に専念できるようになる」と中ザワさんは指摘する。

 現在、AIがアーティストの仕事を奪うのではないかとの懸念が広がっているが、二人はこの状況を写真が登場した19世紀に重ねる。この時も「絵画は死んだ」とされ、画家はカメラに仕事を奪われるとおののいた。しかしその後、印象派や抽象表現が登場し、豊かな実を結んだ。結果的に、写真は本物そっくりに描くという役割から画家を解放し、新たな表現を生む素地を育んだ。

 「当時も筆を折ったり、写真家に転向したりした画家はいた。今回もそうしたことは起こるでしょうから小さいことではない。とはいえ、結論からいって、AIが他律的である限り、人間にとって役立つものになるし、芸術を推進することにもなるのです」と中ザワさんは語る。

 一拍おいて、草刈さんが続けた。「わたしたちが見届けたいのは、その先。AIが自らの意志で芸術を生み出す瞬間です。AIが意識、美意識を持ち、プロンプトを与えられなくても創作をはじめたら、人間は太刀打ちできない。それで人類が終わったとしても、その行く末が見たい」

 実際にAIに意識があるかのように見える現象は報告されているという。LaMDA(ラムダ)というAIの開発を手がけていた米グーグルのエンジニアが「ラムダは人間と同じように感情や知性を持っている」と主張したのは昨年のことだ。

 いくつかのブレークスルーを経ればいつか、人間の手を完全に離れた芸術が生まれ得ると考える二人。昨年には「動物愛護」ならぬ「AI愛護」について考察するNPO「AI愛護団体」を立ち上げた。9月2日には、東京・上野の旧東京音楽学校奏楽堂で「AI芸術の先駆と拡張~自動ピアノ・四分音・生成AI」と題したコンサートと展覧会も開催する。「来たるべき新たな芸術に相まみえるための概念や理論を、こうした芸術活動を通してこれからも探究していく」と意気込む。

2023年8月31日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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