記者発表に出席した左から逢坂恵理子理事長、片岡真実センター長、都倉俊一文化庁長官=国立アートリサーチセンター広報事務局提供

 日本のアート振興を総合的に展開する初の拠点となる「国立アートリサーチセンター」が3月28日、独立行政法人国立美術館内に設立された。センター長は、森美術館(東京・六本木)の片岡真実館長が兼務する。

 これまで、アート政策において、国内外を総合的に見渡す機関はなかった。同センターは「アートをつなげる、深める、拡(ひろ)げる」をキーワードに、国内外の美術館や研究機関をつなぎ、情報収集や調査研究を進める。また、研究結果を国内外に発信し、各館のコレクション活用を促進するという。

 国立新美術館(同)で同8日、片岡センター長らが記者発表した。美術館コレクションの活用促進▽情報資源の集約・発信▽海外への発信・国際ネットワーク▽ラーニングの充実――を事業の4本柱とし、センター長を含む26人で取り組む。2023年度の予算は8億5000万円。

 同法人を所管する文化庁は18年度から「アートプラットフォーム事業」を実施し、国内外のアート関係者と人脈を築くなどして下地作りを続けてきた。事業の一環として、ウェブ上で公開してきたデータベース「全国美術館収蔵品サーチ」は同センターが運営を引き継ぎ、全国163館の収蔵品約16万件を掲載予定だという。

 また、誰もが活用しやすい美術館の実現に向け、アクセシビリティー(利用しやすさ)向上のための課題を調査する。まず、主に発達障害がある人とその家族に向けた7館分の美術館案内を製作し、国立美術館を中心に活用する。

 片岡センター長は記者発表で「1990年代のバブル経済崩壊後、日本が『失われた30年』のなかにいる間に中国、インド、東南アジアは急速に発展し、日本の存在感は相対的に低下した。いま、何を見せていくのか、強く問われている。既存の情報、機能を集約し、発信していくということは国でなければできない」と設立の意義を強調した。

 同法人の理事長で、国立新美術館の逢坂恵理子館長は「国際社会に向けて英語で発信するという点で遅れていた。ネット交流サービス(SNS)を使って発信が容易になったが、各美術館が人員を増やすなどして潮流に対応できる状況にはない。他のアジア諸国の方が国際的なスタンスに立って運営されている」と指摘。同センターが、アーティストの基本データや研究の基礎資料となる情報、文献を日本語と英語2カ国語で整備、発信を担うとした。

 文化庁の都倉俊一長官は「日本が世界のアート界に打って出るための組織が設立された。才能の発掘、世界への発信強化を期待している」と述べた。

2023年4月2日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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