重松象平さん=宮武祐希撮影
重松象平さん=宮武祐希撮影

今回で69回を数える「2023毎日デザイン賞」(毎日新聞社主催)を受賞した建築家、重松象平(しげまつしょうへい)さんは「海外で長く活動していると自分がどこに帰属する人間なのか分からなくなることがある。母国でこうして認められ、非常に名誉」と受賞を喜んだ。

毎日デザイン賞(ロゴマーク)
毎日デザイン賞(ロゴマーク)

 20代半ばでスター建築家の一人、レム・コールハースが率いる世界大手の建築事務所「OMA」に入所した。2006年からは同ニューヨーク事務所の代表を務める。今回の選考会では、そんな重松さんによる「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」の新しい造形性と「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展の会場デザインをめぐる訴求力が高い評価を集めた。

 東京都港区に23年7月に完成した地上49階の同タワー。重松さんは、地下鉄・虎ノ門ヒルズ駅と直結する中央部に3フロアを貫く屋内広場「ステーションアトリウム」を、最上部には情報発信拠点「TOKYONODE」を設け、誰もが立ち入れる公共的な空間を大胆に取り入れた。また、隣接するビルとタワーをデッキでつなぎ、タワーの孤立を回避した。これには周辺エリア全体を活性化させる狙いがある。「経済原理を最優先した商業主義的な超高層ビルにオーラは生まれない。タワーの下と上、その根幹を公共に開くことで、ただ消費されるだけではない、出合いやイノベーションを誘発し、新たなコンテンツが生まれる場をデザインした」と語る。

 22年末から東京都現代美術館(江東区)で開かれたディオール展は、既存の床や壁、天井を覆い隠し、各部屋が映画や舞台のワンシーンであるかのような空間づくりが話題をさらった。

 16年に米メトロポリタン美術館で開かれたファッション展の会場デザインをコンペで勝ち取り、その仕事がディオールの目に留まったことがきっかけになったという。「ドレスを美術館でどう見せるかということについてはこれまであまり議論されてきませんでした。だからこそ可能性がある。夢の世界に迷い込んだかのごとくディオールの世界観をこれでもかと伝えようと振り切りました」

■   ■

 1973年、福岡県生まれ。10歳の頃、化学の研究者だった父と共に1年間、米ボストンに暮らした。現地校に通いながら、ガラスの摩天楼も、移民が残した古い街並みも、どちらも日常のなかで体験した。都市や建築にひかれるようになったのはこの頃からだ。

 九州大で建築を学んだ後、恩師が卒業したオランダの大学院へ留学。在学中にOMAに応募した。「当時一番有名な事務所でしたし、大好きだったので」。入所試験の際、「コールハースに直接、持参した作品をまとめたファイルを見せたい」と面接官に直談判した逸話も持つ。

■   ■

 毎日デザイン賞は、大賞が決まると選考委員が受賞理由をワンフレーズでまとめる。今回は「感性のあるグローバリズム」に決まった。徹底したリサーチによって「新たなグローバル」を見据え、体験する人の心が広がるような「モデル」を作ったからだ。

 「アメリカをはじめ中国や中東など各地でさまざまな仕事をし、それはそれで得がたい経験だった。しかし、建築家はしっかりとどこかに根付き、文化を理解し、建築に落とし込む必要性も感じていた。この7、8年、意識的に日本で仕事を重ねている理由です。僕のグローバルな面と、一人のローカルな人間である面と、両方見ていただけたのだと思います」。そう語る表情は柔らかだった。

2024年3月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

シェアする