シェルターインクルーシブプレイス コパル=五十嵐太郎氏撮影

【この1年】建築 地方に注目すべき作品

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

 今年は高松宮殿下記念世界文化賞の建築部門において、12年ぶりに日本人の建築家が選ばれ、SANAA(妹島和世+西沢立衛)が受賞した。彼らは今月、シドニーの美術館増築プロジェクトを完成させたように、世界各地で活躍を続けている。受賞者紹介では、「公園のような建築」を志向し、「周囲の環境と一体化するような建築、人と人とのつながりを緩やかに生み出す建築」を具現化させているとされ、「透明感あふれるデザインは、建築界に新しい風を吹き込み、新世代の建築家の牽引(けんいん)役を務めている」と評価された。

 さて、国内では、今年も東京ではなく、地方の建築に注目すべき作品が多かった。o+h(大西麻貴+百田有希)による山形市の児童遊戯施設、シェルターインクルーシブプレイスコパルは、まわりの山の風景と呼応する、ゆるやかなランドスケープのような建築によって、真にインクルーシブな空間を実現した。彼らは来年のベネチアビエンナーレ国際建築展において日本館のキュレーターに就任しており、愛される建築のさらなる展開が期待される。同じ山形市では、OpenAがリノベーションを担当したやまがたクリエイティブシティセンターQ1も素晴らしい。旧市立第一小学校を転用したものだが、コンクリートの荒々しい表情をむきだしで残した壁や天井の仕上げが強烈だった。あえてこぎれいにしないリノベーションは、日本ではめずらしいだろう。

 同じ東北では、昨年11月にオープンした八戸市美術館(青森県)が、巨大なジャイアントルームのまわりに専門的な諸室を備え、互いに学び合う多様な活動を掲げている。設計は、このために結成されたユニット、西澤徹夫・浅子佳英・森純平が行い、それぞれの得意領域を生かしたことも特筆されるだろう。

 堂々とした公共建築が登場した。遠藤克彦による大阪中之島美術館は、大都市の中心部に登場した巨大な美術館であり、これまで意外と日本になかったタイプだろう。黒いキューブのような外観だが、内部に入ると、ダイナミックなエスカレーターが続く、艶(あで)やかな空間の吹き抜けが出迎え、周囲の風景を効果的に見せる場所も設ける。仙田満+環境デザイン研究所が設計した石川県立図書館は、家具、照明、サイン、本のディスプレー、アートなど、様々(さまざま)な分野のクリエーターが結集し、総力戦というべき密度の高い空間になった。近年は安くて軽い感じがいいという風潮が強いが、久しぶりに重量級の公共建築である。

大阪中之島美術館=五十嵐太郎氏撮影

 山本理顕はいくつかの教育施設を手がけたが、名古屋造形大の新キャンパスはその集大成というべき建築となった。五つの領域に再編された各分野が共有の場を通じて刺激しあうだけでなく、地域社会にも開くという教育理念が、グリッドが反復する白い空間において徹底されている。

 愛知県では、国際芸術祭「あいち2022」が開催されたが、一宮市エリアでは、丹下健三の墨会館(1957年)が展示会場に使われたおかげで、隅々まで内部を見学することができた。三角形の敷地に対し、船のような外観をもち、後期ル・コルビュジエを想起させるモチーフをちりばめる一方、内部は伝統的な日本建築を意識したかのような開放的な空間が展開する。今なお新鮮な建築だった。

 今年の建築展で印象に残ったのは、末光弘和+末光陽子「Harvest in Architecture」展(ギャラリー間)である。すべてのプロジェクトにおいて環境エンジニアリングと融合した論理的なデザインの姿勢が一貫していた。間違いなく、これからの建築にとって重要な方向性だろう。

◇今年の建築3選
・o+h シェルターインクルーシブプレイス コパル(山形)
・遠藤克彦 大阪中之島美術館
・山本理顕 名古屋造形大(愛知)

2022年12月21日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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