今年も高校生の力作が並んだ「書の甲子園」=大阪市立美術館で、安田美香撮影

【この1年】書 「書の甲子園」 世界に魅力発信

文:桐山正寿(毎日新聞記者)

 第30回国際高校生選抜書展が2月、大阪市立美術館で開かれた。コロナ禍の中で国内外から1万1000点を超す応募があった。「書の甲子園」という名称はすっかり定着し「30回」という節目の年を祝った。指導者への感謝を表すため指導者表彰も行われた。第1回展最高賞受賞者、川本大幽さんが、今年新設された毎日書道顕彰俊英賞に輝くなど、参加者の活躍が目立っている。名称に「国際」の言葉が入っているように、世界中の若者に書の魅力を発信し続けていきたい。

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 「詩文書の魅力 金子鷗亭と中野北溟」(10~12月)は二人の足跡を通じて「現代の書」、とりわけ漢字かな交じり書き作品の可能性を力強く提示した。かな書・五人展(11月)▽六人の星・かな(同)と、かな書の現況を問い掛ける企画が相次ぎ、今後の展開に期待が膨らんだ。

 個展はベテラン書人の真正面からの取り組みが目立った。大多和玉祥書展(1月)▽書の響 岩田明倫の書(同)▽古稀 北野攝山書展(3月)▽真下京子近作展(同)▽米寿記念 渡辺墨仙の書(3~4月)▽稲村龍谷篆刻(てんこく)展(4月)▽室井玄聳書展―想いを紡ぐ・ことば―(7月)▽慶徳紀子展 書に、生かされて(8月)▽矢萩春恵展「ま・な・ざ・し」(9~10月)▽中村草殷書展(10月)▽小野〓厚書作展(同)▽山中翠谷書作展―書に魅せられて―(11月)▽特別陳列 關正人自撰五十顆展(12月)などだ。

 遺墨展も充実していた。辻井京雲 書の世界~詩歌と戯れて~(1月)▽香川峰雲遺作展示(2月)▽石原太流を偲(しの)ぶ(同)▽墨魂 創作から臨書へ
 書人・立石光司の仕事(3~5月)▽高際翠邦先生遺作展(5月)▽生誕110年記念「比田井南谷~線の芸術~」(9~10月)などだ。

 趙孟頫(ちょうもうふ)とその時代―復古と伝承(1~2月)▽国宝手鑑「見努世友」と古筆の美(4~6月)は、焦点の定まった古典への誘いだった。「ミロ展 日本を夢見て」はミロと当時の書人との熱い交流をほうふつとさせた。

 「よめないけど、いいね!―根津美術館の書の名品」(7~8月)は練りに練った視点から書の鑑賞の楽しさについて真摯(しんし)に問い掛けた。

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 書学書道史学会の創設に尽力した西林昭一さんを失った悲しみは、これからますます大きくなっていくだろう。「中国書道文化辞典」「中国新出土の書」「書の文化史」(上・中・下)など学書に役立つ書籍を刊行し、書家を率いて中国や台湾を巡った。

 良寛の世界を追究した試みで毎日芸術賞を受賞した内山玲子さんの死は「関東のかな」について考えさせられた。小伏竹村さん、水谷春晶さん、小森秀雲さん、出口恵山さん、長井蒼之さん、吉崎努さん、千葉半厓さん、菅野清峯さんらが世を去った。

 「田宮文平三回忌追悼シンポジウム」が開かれた。視野の広さで知られた書評論の第一人者の業績の再検討は、これからの課題だ。

 「新潟市會津八一記念館所蔵 會津八一名品50選」は書に関する出版物が激減する中でコンパクトな紹介方法を提示した。全国書美術振興会が『五十年の歩み』を刊行した。多彩な書人が集い、国際交流にも尽力してきた団体の多彩な書の愛好者を巻き込んだ活動がますます求められている。

2022年12月15日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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