同展の第3章には家具やポスター作品が並ぶ。手前はモダニズム建築の巨匠、アルバ・アアルトの椅子=清水有香撮影

 大阪市が構想を打ち出して39年、ついに大阪中之島美術館(大阪市北区)が開館した。待望のオープニングを飾る展覧会「超コレクション展 99のものがたり」では、6000点を超える収蔵品から約400点を公開。近現代美術とデザイン、大阪と関わりのある作品など、早期から着実に収集してきた館のコレクションの厚みを存分に示す。

 来館者をまず出迎えるのは「山本發次郎(はつじろう)コレクション」だ。大阪の実業家、山本發次郎は独自の審美眼に基づき、佐伯祐三の絵画や高僧の書、インドネシアの染織などを収集。それらが1983年、山本の遺族から市に寄贈されたことが同館構想のきっかけになった。「私たちの歴史の始まりとして、展覧会は山本コレクションから始めたいと思った」と本展担当者の一人、高柳有紀子主任学芸員は語る。

大阪中之島美術館開館記念展の冒頭部分を飾る画家、佐伯祐三の「郵便配達夫」(1928年)=菱田諭士撮影

 90年には準備室が設置され、本格的な収集活動がスタート。大阪ゆかりの近代絵画では鍋井克之や北野恒富らに加え、島成園、木谷(吉岡)千種、三露千鈴(みつゆちすず)といった女性画家の作品もそろう。館は準備室時代から大阪の美術の独自性を顕彰する展覧会を開き、「購入はもちろん、展覧会などを通じて紹介することで研究が進み、作家が発掘され、ご遺族などから寄贈いただくという循環によってコレクションが成長してきた」と説明。戦後の前衛写真や版表現の開拓など大阪で生まれた先駆的な表現も紹介され、見どころは尽きない。

 これら館のコレクション形成史をたどる1章に続き、2章では「近現代美術の代表的な作品」という収集方針に沿った絵画や彫刻が並ぶ。89年に海外作家では初めて購入されたモディリアーニの作品を除き、ジャコメッティ、マーク・ロスコ、草間彌生らの作品は90年代に購入されたものだという。国内外の美術館に多く貸し出されてきたものを基準に「やっとホームで紹介できるという気持ちで選びました」と高柳学芸員は語る。

 さらに同館の優れたコレクションで忘れてはならないのがデザイン作品だ。3章では、デザイン史に刻まれるポスターや家具の名品が惜しみなく展示される。たとえば「ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ」はポスターを芸術の域にまで高めたロートレックの代表作。赤いバラが美しい倉俣史朗デザインのアクリル椅子「ミス・ブランチ」も傑作と名高い。

 この章を担当した平井直子主任学芸員は「92年から家具やプロダクト作品のコレクションを始めたからこそ集められた希少品の蓄積」と表現する。時代に翻弄(ほんろう)され、開館までに長い年月を費やしたとはいえ、「美術館の核はコレクションである」という揺るがない姿勢が、豊かな実りをもたらしたのだろう。

 本展タイトルについて、発案した平井学芸員は言う。「99という数字は『未完の完成』で、もっと良くなるという意味がある。美術館はこれから先、みなさんに来ていただき、そこでまた変わっていくことが大事だと思う。開館がゴールではなく、ここからがスタートです」。100個目の新たなものがたりは来館者一人一人に委ねられている。

 3月21日まで(最終日を除く月曜休館)。日時指定の事前予約優先。大阪中之島美術館のホームページ(http://nakka-art.jp)か電話(06・6479・0550)で。

 ◇文化的刺激放つ存在に 2作品が常設、ヤノベケンジ

 同館には大阪生まれの美術家、ヤノベケンジによる猫の彫刻「SHIP’S CAT(Muse)」(2021年)と巨大ロボット「ジャイアント・トらやん」(05年)が常設展示されている。「大阪の街に育てられたような芸術家なので、美術館の完成は感慨深い。大阪にちょっとでも恩返しできたかな」とヤノベ。「収蔵品はもちろん、建築も素晴らしい」と話し、「注目すべきは特殊な黒い外観。映画『2001年宇宙の旅』に出てくる黒い直方体のモノリスは人類に英知を与えるものでしたが、まさにそのような印象です。多くの人に文化的刺激を与える存在に間違いなくなると思います」と期待を寄せる。

大阪中之島美術館に収蔵されている作品「ジャイアント・トらやん」の前でポーズを取る現代美術作家のヤノベケンジさん=菱田諭士撮影

2022年2月16日 毎日新聞・大阪夕刊 掲載

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