美術館が収蔵するのは作品だけではない。作家が残したメモや手紙、展覧会記録といった膨大な資料も重要な所蔵品になる。そんな「アーカイブズ」を整理保管し、公開するのが主な仕事だ。諸外国の美術館と比べて遅れている分野だけに「美術館が持つ社会の文化資源を、管理者として次につないでいきたい」と使命感を持つ。

 アーカイブの構築・運営は、2月2日開館の大阪中之島美術館(大阪市)が掲げる看板事業。その専門家として2017年に着任した。大阪にあった広告代理店の草分け「萬年(まんねん)社」の資料など、出所や主題で区分けされた約90群の資料を扱う。どこからきたどんなもので、どれくらいの量があるのか。素性や内容を書き出し、データベース化する作業が続く。

 日の目をみない資料でも、歴史を書き換える可能性を秘める。そうした価値や意義を見いだすのはあくまで利用者。自身はいろんな人がいろんな視点で活用できるよう、ガイド役に徹する。「誰もがアクセスできてこその文化資源です」。いつも開かれていること。アーカイブは民主主義なのだ。

 オランダで映画保存をはじめとする視聴覚アーカイブのノウハウを学び「さまざまな歴史検証のためにアーカイビングの技術がある」と実感した。19年には米国の研究機関で、美術資料整理の最先端に触れた。「大事にしているのは資料が作られた文脈や背景を壊さないこと」。時代を証言する1次資料を相手に、責任とやりがいを感じる日々だ。<文・清水有香 写真・山田尚弘>


 ■人物略歴
 ◇松山ひとみ(まつやま・ひとみ)さん(40)
 福岡県生まれ。東京芸術大大学院で西洋美術史を学んだ後、2014年アムステルダム大大学院修了。

2022年2月8日 毎日新聞・東京朝刊 掲載

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