KAIT広場=筆者撮影

【この1年】建築 若手建築家が東京外で活躍

文:五十嵐太郎(建築史家・東北大大学院教授)

建築

 1年遅れで開催された東京オリンピックにあわせて、夏にパビリオン・トウキョウ2021プロジェクトが実施された。妹島和世、藤本壮介、藤原徹平、藤森照信らの建築家、ならびにアーティストが参加し、東京の各地に期間限定のパビリオンを出現させたものである。特に石上純也の木陰雲や平田晃久のGlobal Bowlなど、意欲的なデザインを楽しむことができたのだが、本来であれば、彼らのような1970年代生まれの世代が、オリンピックの関連施設を担当してもよかったのではないかと思う。ちなみに、丹下健三が国立代々木競技場の仕事を依頼されたときはまだ40代であり、完成時には50歳だった。

 もっとも、今年、次世代の建築家たちは東京以外の場所に重要な作品を実現している。石上はアクロバティックな構造によって驚異的に低い大空間をもつ神奈川工科大学のKAIT広場、平田はうねる屋根が印象的な八代市民俗伝統芸能伝承館(熊本)、そして藤本は白い家型が並ぶ、石巻のマルホンまきあーとテラス(宮城)を世に送りだした。藤本の建築は、大小のスケールを巧みに操作し、被災地において新しい公共空間の可能性を提示したことが特筆される。

マルホンまきあーとテラス=筆者撮影

 一方東京は、資本の回収が優先され、実験的な建築が登場しにくいが、施主が機能を決めず、自由な設計を依頼した内藤廣の紀尾井清堂が例外的な作品として目立った。天窓から太陽光をとりこむ立方体によって、根源的な空間が実現したからである。外国からの建築関係者が必ず訪れた黒川紀章の中銀カプセルタワービル(72年)は、残念ながら解体が決定した。そこでいしまるあきこが、全戸を実測して記録しつつ、カプセルを保存するプロジェクトを立ち上げている。また黒川による長野県の別荘カプセルハウスK(73年)は、誰もが宿泊できる施設として残ることになった。

 地方では、宮崎浩の設計によって、周辺環境を読み込んだ端正な長野県立美術館がオープンしている。また中村拓志(NAP)と竹中工務店によるZOZO本社屋は、ビジネス街のビルから街中のオフィスへの移転であり、ポストコロナの社会を予見したかのようだ。

 展覧会としては、丹下との違いを表現した隈研吾展「新しい公共性をつくるためのネコの5原則」(東京国立近代美術館)、古建築ではなく、「モダン建築の京都」展(京都市京セラ美術館)、そして建築アーカイブズの整理保存法を提示した「増田友也の建築世界」展(京都大学総合博物館)などが印象に残った。ベネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館は、門脇耕三のキュレーションにより、日本の家屋を部材レベルにまで解体したのち、現地で再構築し、話題を呼んだ。なお、同展では、寺本健一がキュレーターをつとめたアラブ首長国連邦館が最高の金獅子賞、佐藤敬が参加したロシア館が特別表彰に選ばれ、外国館における日本人の活躍がめざましい。

 海外巡回としては、いずれも筆者が監修やキュレーションで関わった窓学展がロンドンやブラジル・サンパウロのジャパンハウス、「かたちが語るとき ポストバブルの日本建築家たち(1995―2020)」展がパリの日本文化会館や仏・オルレアンの建築博物館をまわった。地方/若手/女性の建築家に注目する後者は、日本の巡回も始まっている(現在は兵庫県立美術館、2022年は横浜のBankARTで開催)。

◇今年の建築3選
・石上純也 KAIT広場(神奈川)
・藤本壮介 マルホンまきあーとテラス(宮城)
・内藤廣 紀尾井清堂(東京)

2021年12月13日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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