第72回毎日書道展には書との再会を願う人々が集まった=東京都港区の国立新美術館で

【この1年】書 順延の毎日書道展、開催

文:桐山正寿(毎日新聞記者)

 1年順延となっていた第72回毎日書道展が開催された。出品点数2万8000点超。会場では書と再会できた喜びが熱っぽく語られていた。「現代日本の書2020選抜展示」が併催され、毎日書道展の7部門の60歳以下(選考当時)の審査会員から選抜された30人の大作が並び、書の未来を占う場となった。第29回国際高校生選抜書展(書の甲子園)は表彰式は中止されたが大阪市立美術館で開かれ、毎日書道展各展会場にも入賞作が展示され、高校生の書を鑑賞できる機会が増えた。

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 「書・六人展」(9月)は「現代の書」をけん引する鬼頭墨峻さん、石飛博光さん、船本芳雲さん、辻元大雲さん、仲川恭司さん、柳碧蘚さんが大作で競い合った。会派の代表がそれぞれの個性を全開させた作品の数々は、次世代への熱いエールを送っていた。

 個展は、企画性に満ちたベテラン勢の試みが目立った。小原道城・書と水墨画個展(6~7月)の文人精神の追求。「下谷洋子書展―上州の韻き こよなく・かな―」(7月)のかなの現代性への提言。「源氏物語<浮舟>を書く 慶徳紀子書展」(10月)の書線と紙や表具への総合的な工夫▽「古稀(こき) 大〓の書」(11月)の超大作に託した個性と情熱の発露などだ。

 ほか、石飛博光近作展(1月)▽神田浩山秀明文化賞受賞記念書展(3月)▽齊藤瑞仙刻字展(3~4月)▽原田凍谷個展(7月)▽棧敷東石書展(7~8月)が印象に残った。

 充実した遺墨展は眼福だった。「萬象、一刀の中にあり 篆刻(てんこく)家・松丸東魚の仕事」(3~4月)▽「筒井敬玉と旧蔵の複製本」(4~5月)▽「生誕120年 松井如流と蒐集(しゅうしゅう)の拓本」(9~10月)▽「貞政少登遺墨展―墨彩の軌跡―」(11月)などは、先人の業績に圧倒された。

 上野アーティストプロジェクト2020「読み、味わう現代の書」(昨年11月~今年1月)は、中野北溟さん、小山やす子さんらの仕事を通して書の鑑賞を呼び掛けた好企画だった。創立80周年第70回記念奎星展▽「Ten・ten
 2021 in 横浜赤レンガ倉庫 ―筆と腕―」▽「かたちへの眼差(まなざ)し」などは前衛表現についての再考を促した。

 「凸凹の書 俊文書道会」の刊行は書の喜びを訴え掛けた。「シリーズ書の古典」(全30巻)が完結した。書をめぐる出版活動が停滞する中、気を吐いた。

 大井錦亭さんの死は衝撃だった。骨力ある線を自在に駆使した作品で知られ、書道会の発展、日中の交流に尽力した。さらに、小野桂甫さん、大井淑子さん、越水春汀さん、池田若邨さん、佐野瑞香さん、石原太流さんらが世を去った。

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 書道が登録無形文化財として登録された。書の普及に尽力してきた人々にとって、朗報だったに違いない。ただ、生活文化としての書を根付かせるためには愛好者だけではなく、広く国民全体に書の魅力を知ってもらわなくてはならない。書を生きた文化として継承していくためには、時代の変化に対応した試みが必要となるだろう。書の多彩な魅力を、新しく開拓していく気概が持てるかどうかが問われている。

2021年12月8日 毎日新聞・東京夕刊 掲載

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